嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「リーゼ……ロッテ……」
息を詰め、信じたくない思いでその名を呼んだ。
ゆっくりとリーゼロッテはこちらに顔を向けてくる。目が合った瞬間、桜色の唇がにぃっと歪な笑みを刻んだ。
「馬鹿な女だ……大人しくしていればいいものを」
耳障りにも思える声が、リーゼロッテの口から紡がれる。
見つめ返す緑の瞳にいつもの輝きは見られない。虚ろになった目の奥には、明らかに異質な光が宿されていた。
紅の女に体を乗っ取られている。それは誰の目にも明らかだった。
見る間に異形の浸食が深まっていく。一刻も早く引き剥がさなくては、リーゼロッテの精神が壊れさかねない。そんな危険な状況にジークヴァルトは凍りついた。
気づかれないよう後ろ手に力を籠める。すかさずリーゼロッテの唇がノイズ交じりの言葉を吐き出した。
「動くな。でないとこの女が死ぬことになる」
リーゼロッテの手が自身の喉元に当てられる。その指先からは紅の瘴気がにじみ出していた。
ぐっと奥歯を噛みしめ、言われた通りに動きを止めた。さらに目線で促され、ジークヴァルトは貯めかけていた力を大気に解いた。
「いい子ね、坊や」
勝ち誇った笑みを浮かべつつ、指示するようにくいと顎を動かしてくる。
「剣を持っているわね? それをお出しなさい」
護身用に忍ばせておいた短剣を、迷いなく石造りの廊下に投げ捨てた。
ジークヴァルトと見つめ合ったまま、緩慢な動きでリーゼロッテがそれを拾い上げていく。
「両手を上げて。そう……そのまま頭の後ろで組むのよ」
ジークヴァルトは黙って従うしかない。リーゼロッテを人質に取られては、下手に動くこともできなかった。
それでも隙をつく瞬間を見極めるため、その一挙手一投足を冷静な目で追っていく。
ゆったりとした足取りでリーゼロッテは真正面に立った。立ち尽くすジークヴァルトの頬に、リーゼロッテ手ずから鈍く光る短剣が当てられる。
軽くスライドしただけで、皮膚に線状の傷が走った。一瞬遅れて血の滴りが流れ出す。
息を詰め、信じたくない思いでその名を呼んだ。
ゆっくりとリーゼロッテはこちらに顔を向けてくる。目が合った瞬間、桜色の唇がにぃっと歪な笑みを刻んだ。
「馬鹿な女だ……大人しくしていればいいものを」
耳障りにも思える声が、リーゼロッテの口から紡がれる。
見つめ返す緑の瞳にいつもの輝きは見られない。虚ろになった目の奥には、明らかに異質な光が宿されていた。
紅の女に体を乗っ取られている。それは誰の目にも明らかだった。
見る間に異形の浸食が深まっていく。一刻も早く引き剥がさなくては、リーゼロッテの精神が壊れさかねない。そんな危険な状況にジークヴァルトは凍りついた。
気づかれないよう後ろ手に力を籠める。すかさずリーゼロッテの唇がノイズ交じりの言葉を吐き出した。
「動くな。でないとこの女が死ぬことになる」
リーゼロッテの手が自身の喉元に当てられる。その指先からは紅の瘴気がにじみ出していた。
ぐっと奥歯を噛みしめ、言われた通りに動きを止めた。さらに目線で促され、ジークヴァルトは貯めかけていた力を大気に解いた。
「いい子ね、坊や」
勝ち誇った笑みを浮かべつつ、指示するようにくいと顎を動かしてくる。
「剣を持っているわね? それをお出しなさい」
護身用に忍ばせておいた短剣を、迷いなく石造りの廊下に投げ捨てた。
ジークヴァルトと見つめ合ったまま、緩慢な動きでリーゼロッテがそれを拾い上げていく。
「両手を上げて。そう……そのまま頭の後ろで組むのよ」
ジークヴァルトは黙って従うしかない。リーゼロッテを人質に取られては、下手に動くこともできなかった。
それでも隙をつく瞬間を見極めるため、その一挙手一投足を冷静な目で追っていく。
ゆったりとした足取りでリーゼロッテは真正面に立った。立ち尽くすジークヴァルトの頬に、リーゼロッテ手ずから鈍く光る短剣が当てられる。
軽くスライドしただけで、皮膚に線状の傷が走った。一瞬遅れて血の滴りが流れ出す。