嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
     ◇
 ほんの一瞬の油断からだった。禁忌の異形に乗っ取られ、体の内側から囚われる。
 自分の中のどこか奥に押し込められて、あまりの息苦しさにリーゼロッテは意識を手放しかけた。

(心の底まで明け渡したら駄目――!)

 本能が知らせる警鐘に、なんとか正気を保とうと必死になった。
 それなのに体がまったく言うことを聞いてくれない。女の意のままに操られ、剣を持つこの手がジークヴァルトの肌を傷つけていく。

「や……めて……」

 反撃はおろか、ジークヴァルトは微動だにせずただ耐えている。このままでは致命傷を与えるのも時間の問題だ。
 懸命に抗うも、どうあっても主導権を取り戻すことはできなかった。さらに皮膚に食い込もうとする短剣を、リーゼロッテは死に物狂いで押しとどめた。

(やめて、やめて、やめて!)

 いたずらに流れ出した涙が、女の一部を強酸のように爛れさせていく。
 その痛みをリーゼロッテも等しく受けながら、女の苛立ちが膨れ上がるのをつぶさに感じ取った。

「煩い! お前はおとなしく引っ込んでいろ!」

 やっとの思いで拘束していた腕が、怒声とともに振り解かれる。

「そこで指を咥えて見ているといい。お前のこの手が、愛する男を死に至らしめる瞬間を」

 柄を握り直した女から嬉々とした感情が伝わってきた。
 泣き叫ぶ心とは裏腹に、自分の腕が短剣を高々と持ち上げていく。自分の体だと言うのに、どうあってもその動きを止められない。

「さぁ、悔やむがいい! こうなったのもすべてお前の愚かな行いのせいだ……!」
(いやぁっ)

 鋭利な(やいば)が迷いなくジークヴァルトへと振り下ろされる。

(お願い! ジークヴァルト様、避けて、避けて、避けて……!)

< 517 / 595 >

この作品をシェア

pagetop