嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「知っているか? ディートリヒの赤毛は数代前に市井育ちの下賤の女の血が混ざった証……そんな卑しい血筋をどうして王家と認められようか」
「まったくその通りね」
「だろう? しかもディートリヒが迎えた王妃は隣国の王女だ。その蛮族となした子が王位に就くなど全くもって笑止千万」

 さらに生まれた王子は父親とは似ても似つかないと、そんな噂話が貴族の間ではもちきりになっている。
 セレスティーヌ王妃の不義を疑う声すら上がっている現状に、ツェーザルは苛立ちの息を吐いた。

「口には出せないだけでハインリヒ王子の廃嫡を望む者は多いはずだ」

 ――ああ、なんと凛々しく愛しい(ひと)だろうか。
 狂おしいほどの思慕が高まって、知らず唇から甘美のため息が漏れて出る。
 憎々しげに歪められた横顔を、熱の籠った視線で見つめ続けた。

「このまま立太子させてなるものか。好都合にも、病弱なセレスティーヌ王妃の命はすでに風前の灯火。王子を亡き者にできさえすれば……」
「ハインリヒ王子が死ねばツェーザルが王になれるの?」

 ストレートな物言いに、ツェーザルはふっと笑みを浮かべた。
 止まっていた指の動きが、再びこの髪を愛撫する。

「そのために必要な一歩だ。噂がどうあれ、現時点で王子は正当な王位継承者。この邪魔な存在さえ排除できれば、偽りの王家を根絶やしにするのも容易(たやす)くなる」
「そうすれば新王ツェーザルが誕生するのね」
「ああ、そのときはお前を正妃として迎えよう」
「ツェーザル……!」

 歓喜のあまり声が詰まった。王となったツェーザルが選ぶのは、政略妻のあの女ではなく自分なのだ。
 王妃ともなれば、こんな寂れた館で隠れるように逢瀬を重ねる必要もない。愚鈍で醜悪な正妻に感じていた劣等感が、途端に優越感に様変わりした。

「オレを支えるため、ずっとそばにいてくれるな?」
「ええ……ええ、もちろんよ、ツェーザル」

 瞳を潤ませ、心から頷き返す。この(ひと)に相応しいのは、若さと美貌を兼ね備えた自分以外にあり得ない。
 冠を戴いたツェーザルと並び立ち、大勢の者にかしずかれる。その場面を想像するだけでどうしようもなく心が逸った。
 愛するツェーザルとなら、例え修羅の道であろうと天国に変わるだろう。勝ち誇った気分に浸っていると、流れるように場面が移ろった。

< 519 / 595 >

この作品をシェア

pagetop