嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「この短剣と宝飾は刺客の女が身に着けていたもの。(しら)を切ろうとしても無駄ですぞ」

 そう、確かに自分は王子の胸に剣を突き立てた。
 愛する男の夢を叶えるために――。

「そんな女など知らぬ!」

 ツェーザルの叫びが冷たく女に突き刺さった。悪い夢を見ているのだと、一度はそれを拒絶する。

「それは可笑しいですな。この宝飾はザイデル公爵が愛人に贈ったものと、そう宝石商から証言が取れておりますぞ」
「だとしてもわたしは王子暗殺の指示などしていない! あの女が独断でやったことだ!」
「これはまた見苦しい言い逃れを」
「知らぬと言ったら知らぬ! そんな愚かな女とわたしは無関係だ……!」

 騎士の手を振り切って、ツェーザルは木箱を乱暴に薙ぎ払った。衝撃で千切れた輝石が床を四方に散らばっていく。
 足元に転がったルビーに、ツェーザルの顔は憎々しげに歪んだ。その靴底が、無残にも紅い輝きを踏み潰す。

 リーゼロッテは愛が反転する瞬間を見た。

 罵詈雑言を吐きながら、ツェーザルが連行されていく。
 それを見送る女からは、もはや紅蓮の怒りしか伝わってこなかった。
 ユルセナイ。
 信じていたものが崩れ去り、裏切りへの復讐の炎が燃え盛る。

(それなのに――)
 女が求めるものは、何ひとつ変わらない。

 ただ愛を欲する慟哭がリーゼロッテの胸をどうしようもなく締め付ける。

 ツェーザル、ツェーザル、ツェーザル……!

 女の唇はその男の名を呼び続けた。
 いくら手を伸ばしても、その背はどんどんと遠ざかっていく。
 どんなに名を叫ぼうと、最後までツェーザルがこちらを振り返ることはなかった。

 場面が流れるように移ろった。女の思いが高速で巡る。
 かつて愛し合った日々。踏みにじられた紅玉(ルビー)の輝き。振り向くことのないツェーザルがやがて小さく消えていく。
 その場面が際限なく繰り返される。

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