嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 こんなにも愛しているのに。わたしを捨てるなど許されるはずがない。
 へばりつく怨嗟が(かさ)を増し、紅蓮の濁流からリーゼロッテは抜け出すことはできなかった。

 ――選びなさい、選びなさい、選びなさい

 遠くからあの声がする。
 それを認識したが最後、リーゼロッテの意識はいよいよ女の沼へと深く沈んでいった。

 そのとき求めてやまない男の気配を感じた。
 一瞬で何もかもが紅に染まり、この心を怨嗟の念が激しく渦巻いた。

「ツェーザル――――っ!」

 ありったけの声で叫んだのは、紅の女だったのか、リーゼロッテだったのか。
 目の前にあの男がいる。
 短剣を片手にリーゼロッテは迷わず駆け出した。

「な、なんだ、お前は……!」

 狼狽したツェーザルが剣を構えた。
 ただそうすることが当たり前に思えて、ためらうことなくリーゼロッテは握る短剣を振りかぶる。

「リーゼロッテ!」

 振り上げた手首をジークヴァルトに掴まれた。走る勢いは止められず、リーゼロッテは尚もツェーザルを目指そうとした。
 どうあってもあの男を許すわけにはいかない。
 ジークヴァルトの腕の中、リーゼロッテの体から紅の穢れが立ち昇った。
 誰よりも愛していた。この裏切りは八つ裂きにしても余りある。
 もう二度と逃がしはしない。ツェーザルは永遠に自分のものなのだから。

 愛しさと憎しみで逸る気持ちそのままに、瘴気の塊がツェーザルへと延ばされる。
 濃厚な瘴気に苦痛を浮かべたジークヴァルトは、それでもリーゼロッテを離さなかった。引き留められる体と裏腹に、女の怒りはひたすらツェーザルを求め行く。

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