嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
     ◇
「ったく、どんだけ広いんだよ!」

 駆ける廊下で毒づいた。かなり進んだが未だルチアは見つけられない。
 それでもここを通ったことは間違いなさそうだ。
 ルチアが脱いだであろう靴が無造作に転がっている。気配の残り香を辿って、カイはさらに走る速度を上げていった。

 胸騒ぎにどうしようもなく気が急いた。
 異形に襲われるルチアを助け出すとき、カイは星に堕ちる運命だ。
 今、その時が来た。
 そんな確信めいた予感を抱く。
 だがそれとともに、先にルチアが騎士団に保護されていればと、そんな笑い話になることもカイは同時に願っていた。

(なんだ……?)

 何かが崩れるような地響きがする。
 その直後、急激に紅の瘴気が広がるのが感じられた。

「ルチア……!」

 思うよりも早く駆け出した。
 すぐに取り憑かれた男の姿が目に映る。その背には膨大な数の異形の者が揺らめいていた。
 どの異形も苦悶の叫びを上げ、苦しみの中で身悶えている。

()()に飲まれたのか――)

 覆いかぶさるように、紅の女が男に絡みついている。男の自我などとっくに崩壊しているのだろう。
 ぶつぶつと何かを口にしながら、おぼつかない足取りで男は何かに手を伸ばした。

「やめて! 触らないでって言ってるでしょっ」

 半泣きのルチアが壁際に追い詰められている。
 今まさに届きそうな手の距離に、カイは思わずつぶやいた。

「オレのおもちゃに……」

 手の内に力をためて、迷わず走り寄る。

「汚い手で触んなよっ」

< 538 / 595 >

この作品をシェア

pagetop