嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
     ◇
「ねぇ、エラ。ジークヴァルト様はまだお戻りになられないのかしら……?」
「辺境の砦からはまだ連絡はないようですね。マテアスには知らせが来たら真っ先に教えてもらえるよう言ってありますが」
「そう……」

 大きなクマの縫いぐるみ、アルフレート二体のもふもふの間に挟まって、リーゼロッテはしゅんとうなだれた。
 フーゲンベルク家に戻ってからは、ずっと部屋に引きこもって過ごしている。
 隣国の兵が鎮圧されたあと、騎士たちに厳重に守られながらリーゼロッテはひとり公爵家に帰ってきた。
 ジークヴァルトは異形の調査や戦いの後処理のため、未だヴォルンアルバの地に滞在している。

 無意識に胸元に手をやった。今リーゼロッテは弁慶よろしく、特大の守り石がじゃらじゃら連なるネックレスを下げている。
 これは辺境の砦を出るときにジークヴァルトから有無を言わさず渡されたものだ。
 国の有事とあっては、さすがのジークヴァルトも一緒に帰るとは言えなかったようだ。
 代わりにこの長すぎるネックレスに浄化の力を籠めまくり、リーゼロッテの首にぐるぐると巻き付けてきた。

(ヴァルト様の力に包まれてて安心できるけど……)

 あまりの重みに肩が凝りそうな勢いだ。
 リーゼロッテは肩を押さえて、こきこきと首を鳴らした。
 これまで長期に渡って離れている間は、毎日のように手紙のやりとりをしていた。
 だがヴォルンアルバは優れた早馬でも数日はかかる辺境の地。悠長に交換日記を送りつけている場合ではないだろう。

『ねぇ、リーゼロッテ。ヴァルトが問題ないかって聞いてるよ?』
「ヴァルト様! ええ、なんにも問題ありませんわ!」

 そばであぐらをかくジークハルトに前のめりで答えた。週に一度くらいジークヴァルトはこうしてコンタクトを取ってくる。
 この守護者の出張サービスがあるからこそ、ジークヴァルトはリーゼロッテを送り出すことを渋々承諾した。
 辺境の砦と公爵領は相当距離がある。これだけ離れていても、気合を入れればまぁ大丈夫というのがジークハルト談だ。

『うーん。ヴァルトってば、それでも気が気じゃないみたいだよ?』
「わたくし、ちゃんと大人しくしております。心配なさらなくっても大丈夫ですわ」

 それこそ部屋からは一歩も出ていない。
 目の前で浮くジークハルトに顔を寄せ、安心させるために小さくガッツポーズしてみせた。

『なに、ヴァルト? え? 近すぎる? そんなふうに文句言うことないじゃない。リーゼロッテがよく見えるんだからさ』

 リーゼロッテの鼻先すれすれで、ジークハルトがやれやれと肩をすくめた。
 心が逸って少々前のめりになり過ぎたようだ。浮きかかったお尻を戻し、リーゼロッテはアルフレートたちの間で居住まいを正した。

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