嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
     ◇
 王城を出て、急いた気持ちで馬を駆る。
 辺境伯である父から託された書状を手に、渡したらさっさと城を出ようと初めはそんな軽い考えでいた。
 ヴォルンアルバの地で、カイが星に堕ちた。淡々と言ったハインリヒに、ジークヴァルトは返す言葉を失った。

 思えば戦禍の後処理の日々で、カイを見かけることは一度もなかった。
 あれだけの数の騎士がいたのだ。ハインリヒ直属のカイが先に王都に戻っていても不思議はない。
 そんな意識があってか、カイの存在を気にかけることもしなかった。

 ジークヴァルトもカイの受けた託宣のことは知っていた。いつかその日が来るであろうことも。
 あの笑顔はカイの仮面だ。そう気づいていても、何よりも同情を嫌うカイを尊重したジークヴァルトは、ずっと無関心を貫いてきた。
 それなのに。

 思っていた以上に動揺している自分がいる。
 言葉にならなくて、無性にリーゼロッテの温もりが欲しくなった。カイのことを知ったなら、彼女はどれほどの哀しみに暮れるだろう。

 そんなことを思いながら、ジークヴァルトはフーゲンベルク領をひたすら目指した。
 戻った屋敷で、足早にリーゼロッテの部屋へと向かう。その先でカークを連れたリーゼロッテの姿が見えた。
 こちらに気づいたリーゼロッテが、頬を上気させこの胸に飛び込んでくる。

「ヴァルト様、お帰りなさいませ……!」

 思いきり抱き着かれ、閉じ込めた腕で強く抱き締め返す。甘えるように頬ずりしてくるリーゼロッテに、知らず腕の力が強まった。
 苦しそうに見上げてくるも、満面の笑みを浮かべるリーゼロッテにどう伝えるべきかと躊躇した。
 それでも言わないでいることもできなくて、ジークヴァルトはなんとか重い口を開きかけた。しかし喉が詰まって言葉のひとつも出てこない。
 龍が目隠しをしている。それが分かると、唇を引き結んだジークヴァルトはぐっと奥歯を噛みしめた。

「ヴァルト様……?」

 不思議そうに緑の瞳が覗き込んでくる。
 そんなリーゼロッテの頭のてっぺんに顔をうずめ、ジークヴァルトは呻くように呟いた。

「何でもない……」

 言いながら、強く強く抱きしめる。戸惑いながらもリーゼロッテは素直に身を預けてきた。
 このまま何も知らせない方がいいのかもしれない。
 龍を理由(いいわけ)に、そんな考えが頭をもたげてくる。

「何もない……」

 もう一度そう言って、リーゼロッテの華奢な体をジークヴァルトは腕に閉じ込め続けた。

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