嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
      ◇
 ジークヴァルトは帰ってきたものの、たまりにたまった領地の仕事を片付けるためふたりの時間はほとんど取れていなかった。
 それでも夜は一緒に眠れている。そのことに感謝して、リーゼロッテは不平不満もなく日々を穏やかに過ごしていた。

 砦の騒ぎが収束したあと、ツェーザルは瓦礫の下から遺体となって発見されたそうだ。
 そこに紅の女の姿はなく、気配すら感知できなくなっていたとジークヴァルトが言葉少なく話してくれた。
 あんな形でも愛する(ひと)を手に入れた彼女は、満足して天に昇って行ったのだろうか。
 ツェーザルとともに安らかな光の道を辿ったのだと、そう信じたいリーゼロッテだった。

(そう言えば、そろそろ新しい貴族名鑑が届くころね)

 ようやく春が訪れるという時期に、毎年新しい貴族名鑑が各家に配られる。昨年のデータに基づきまとめられた最新バージョンだ。
 雪解けとともにお茶会の数も増えていく。これからの社交シーズンを乗り切るためにも、貴族関係をおさらいしておこうとリーゼロッテはカークを引き連れ書庫へと向かった。
 古い貴族名鑑は奥書庫に保管されているが、最近の数年分はリーゼロッテがいつでも見られるようにとすぐ手に取れる棚に置いてもらっている。

「エマニュエル様、お忙しいところつき合わせてごめんなさい」
「とんでもございません。リーゼロッテ様のお力になれるのなら光栄ですわ」

 マテアスの姉エマニュエルは妖艶な美女で、安定のわがままボディの持ち主だ。
 彼女はいつもリーゼロッテの教師役を買って出てくれている。子爵夫人としてやらなくてはいけないことも多いだろうに、今年も快く引き受けてくれた。

「それにしても辺境の砦では大変な目に合われましたね……」
「ええ……でも本当に大変だったのはジークヴァルト様ですから」
「おふたりともご無事で本当によかったですわ。砦での敵襲はすんなり平定されたそうですし」

 エマニュエルの話では、オーランウヴス侵攻の話はすぐさま貴族の間に広まったそうだ。
 市街地では騎士団総出で残党の一斉検挙が行われ、かなりの規模で潜伏していたことが分かったらしい。

「下町では怪我人が多く出たという話ですが、シネヴァの森の巫女様が薬草などを多く届けてくださったとか」
「シンシア様が……」

 ジークヴァルトもそんな危険な戦いに参加していたのか。
 呑気に待っていた自分が恥ずかしくなってくる。

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