嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「事前に騎士団を送っていたことが大きかったと、ハインリヒ王の采配を称賛する声も上がっているようですわ」
「それは確かにそうですわね……」

 あの場に騎士団がいてくれなかったら、ジークヴァルトが最前線で戦うことになっていたかもしれない。
 そう思うとリーゼロッテは恐怖で小さく身震いをした。

「我が国は青龍に護られているという声もよく耳にしますわ。この話題で社交界はしばらくもちきりになるでしょうね」

 過去に起きた他国の侵攻も、すべて無事に退けられて来た。その歴史を青龍の加護と信じる貴族は数多い。
 実際にそれは真実なのだろう。託宣を降ろすことで、龍はこの国を長く導いてきたのだから。

(にしてもさすがはエマニュエル様ね。情報収集がお早いわ)

 リーゼロッテも公爵夫人として、ひと通り旬の話題を頭に入れておきたいところだ。
 日々執務に励むジークヴァルトのためにも、自分にできることをしなくては。
 そんな思いに駆られ、エマニュエルとともに貴族名鑑を開いた。ページを広げたのは届いたばかりの最新版と昨年版の二冊だ。
 代替わりや婚姻・出生、新たに社交界にデビューした者など、この一年で変わったことをチェックしていく。
 もちろんリーゼロッテ自身もダーミッシュ伯爵令嬢からフーゲンベルク公爵夫人にジョブチェンジしていた。

(わたし、本当にジークヴァルト様の妻になったのね……)

 今さらながらにそんなことを思って、にまにまと口元がゆるんでしまう。

「リーゼロッテ様? どうかなさいましたか?」
「い、いいえ、なんでもありませんわ」

 首を振り、慌てて顔を引きしめた。

(いけない、いけない。ちゃんと真面目にやらなきゃだわ)

 改めて貴族名鑑に目を落とす。
 昨年に起きた大きな変化は、伯爵家のひとつが取り潰し寸前までいったことだ。領地経営で悪政を行い、裏金を誤魔化そうとして大問題となったらしい。
 しかもフーゲンベルク家を巻き込もうと企んだと言うから驚きだ。悪事が明るみに出てすぐさま粛清された伯爵家は、当主を挿げ替えることで一件落着したという。

(ええと、この方は名前に二重線がついてるから貴族を除籍になって、こちらの親戚の方が新たに家督を継がれたのね。で、こちらの方は括弧がついているからお亡くなりになって、それでこの方は……)

 そんなあれやこれやを確かめながら、更に紙をめくっていく。
 子爵家が続くページで、ふとルチアの鮮やかな赤毛を見つけた。

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