嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「エマニュエル様……デルプフェルト侯爵には全部で九人のお子様がいらっしゃいましたわよね?」
「いえ、八人と記憶しておりますが」
「そんなはず! だってほら、亡くなられた正妻の唯一の子供がカイ様だって、エマニュエル様もそうおっしゃってたでしょう!?」
「ベアトリーセ様はお子を儲けることなく亡くなられたはずですが……」
食ってかかる勢いのリーゼロッテに、戸惑った顔でエマニュエルが答えた。
一体何が起きているのだろうか。
激しく動悸がする中、リーゼロッテは混乱した頭で必死に考えを巡らせた。
(名鑑で亡くなった人には括弧がついて、除籍になったら二重線が引かれて。じゃあ、黒塗りにされた人は――?)
いちばん初めに貴族名鑑の見方を教えてくれたのはカイだった。
今いる席のちょうど真向かいで、あの日カイは何冊もの貴族名鑑を広げていた。
そのときにカイはなんと教えてくれただろうか。不自然にある空白。黒塗りにされた人物。数年前にここでした会話を思い出そうと、リーゼロッテは記憶の引き出しを懸命に探っていった。
(あの日、カイ様は突然公爵家にいらして……そうよ、あれはちょうどデビューの白の夜会が終わったあとのことだったわ)
確かその日、カイは泣き虫ジョンの視察にやってきた。貴族名鑑を一緒に見たのは、調べ物を手伝ってほしいと言われたからだ。
あの頃のリーゼロッテはジョンが星を堕とす者だとはまだ知らなくて、グレーデン家で紅の女に遭遇したのはその少し後の話だったはずだ。
(星を堕とす者……?)
取り憑かれたときに視た紅の女の追憶が頭をよぎる。
彼女が星を堕とす者になったのは、当時赤ん坊だったハインリヒ王子の命を狙ったためだ。
初めて名鑑を広げた日、リーゼロッテはカイから教わった。龍の託宣を阻もうとした者の末路が、星を堕とす者だということを。
(青龍に逆らい鉄槌を受けた禁忌の異形……カイ様とどうしてそんな話になったのだっけ?)
無意識下で思い出すことを拒絶する自分がいる。それでも次第に掘り起こされていく記憶が、芋づる式で鮮明に蘇ってきた。
あのときリーゼロッテは今日と同じように黒塗りにされているページを見つけた。それについて、あの日カイは何と言っていただろうか。
(そう、確か――)
黒く塗り潰された貴族は、“いなかったこと“にされたのだと。
『――その人物は、星を堕とす者だから』
「いえ、八人と記憶しておりますが」
「そんなはず! だってほら、亡くなられた正妻の唯一の子供がカイ様だって、エマニュエル様もそうおっしゃってたでしょう!?」
「ベアトリーセ様はお子を儲けることなく亡くなられたはずですが……」
食ってかかる勢いのリーゼロッテに、戸惑った顔でエマニュエルが答えた。
一体何が起きているのだろうか。
激しく動悸がする中、リーゼロッテは混乱した頭で必死に考えを巡らせた。
(名鑑で亡くなった人には括弧がついて、除籍になったら二重線が引かれて。じゃあ、黒塗りにされた人は――?)
いちばん初めに貴族名鑑の見方を教えてくれたのはカイだった。
今いる席のちょうど真向かいで、あの日カイは何冊もの貴族名鑑を広げていた。
そのときにカイはなんと教えてくれただろうか。不自然にある空白。黒塗りにされた人物。数年前にここでした会話を思い出そうと、リーゼロッテは記憶の引き出しを懸命に探っていった。
(あの日、カイ様は突然公爵家にいらして……そうよ、あれはちょうどデビューの白の夜会が終わったあとのことだったわ)
確かその日、カイは泣き虫ジョンの視察にやってきた。貴族名鑑を一緒に見たのは、調べ物を手伝ってほしいと言われたからだ。
あの頃のリーゼロッテはジョンが星を堕とす者だとはまだ知らなくて、グレーデン家で紅の女に遭遇したのはその少し後の話だったはずだ。
(星を堕とす者……?)
取り憑かれたときに視た紅の女の追憶が頭をよぎる。
彼女が星を堕とす者になったのは、当時赤ん坊だったハインリヒ王子の命を狙ったためだ。
初めて名鑑を広げた日、リーゼロッテはカイから教わった。龍の託宣を阻もうとした者の末路が、星を堕とす者だということを。
(青龍に逆らい鉄槌を受けた禁忌の異形……カイ様とどうしてそんな話になったのだっけ?)
無意識下で思い出すことを拒絶する自分がいる。それでも次第に掘り起こされていく記憶が、芋づる式で鮮明に蘇ってきた。
あのときリーゼロッテは今日と同じように黒塗りにされているページを見つけた。それについて、あの日カイは何と言っていただろうか。
(そう、確か――)
黒く塗り潰された貴族は、“いなかったこと“にされたのだと。
『――その人物は、星を堕とす者だから』