嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 最初にかける言葉を、リーゼロッテはいまだ探しあぐねていた。
 込み上げそうな涙を必死に押しとどめる。ルチアとベッティに自分が泣いてすがってどうすると言うのだ。

(ふたりの方が辛いに決まっているもの)

 通された部屋で、リーゼロッテは揺れる暖炉の炎を見つめていた。
 ルルが用意してくれたのは熱いココアだ。甘ったるい香りに幾分か緊張が解けていくも、口を付ける気分にはなれなかった。

 ほどなくして再びルルが顔をのぞかせた。

「リーゼロッテ様、エリザベス様をお連れしました」
「エリザベス様?」

 こてんと首を傾けていると、後ろからベッティが現れる。弾かれるように立ち上がり、一目散に駆け寄った。
 あれほど泣くまいと固く誓っていたはずなのに、緑の瞳から涙がせり上がる。
 嗚咽を堪えベッティを強く抱きしめた。そんなリーゼロッテの背に、そっとベッティが手を添えてくる。

「お願いルル……ベッティとふたりにして……」
「かしこまりました」

 退室したルルが音もなく扉を閉める。
 ベティの顔を見た途端、用意していた言葉はどこかに飛んで行ってしまった。ふたりきりの部屋でリーゼロッテは声を詰まらせた。

「お疲れでしょうからぁ、ひとまずはお座りになってくださいましぃ」

 普段と変わらない声音のベッティは、しかし随分と痩せてしまっている。
 立っていようとするベッティの手を引いて、同じ長椅子に座らせた。
 手をつないだまま言葉を探すも、開きかけては口をつぐむをただ繰り返す。声が形になる前に、いたずらに涙がこぼれ落ちてしまいそうだ。

「こちらにいらしたということはぁ、リーゼロッテ様は坊ちゃまのこと覚えていらっしゃるんですねぇ」

 ベッティはぽつりと言った。
 伏せられた睫毛の横顔は、どこか諦めの色を含んでいた。知らず握る指先に力が籠る。
 応えるように泣き笑いを向けられて、リーゼロッテの瞳から本格的に涙が溢れ出た。

「カイ様に……何があったと言うの? お願いよベッティ……話せるのならわたくしにも教えて……」

 震える唇でどうにか言葉を紡ぎ出す。
 傷口を(えぐ)りにかかる要求に、承諾も拒絶も示さないままベッティは静かに瞳を伏せた。

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