嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「ヴォルンアルバの砦でリーゼロッテ様がルチア様を逃がしてくれたあとぉ、わたしたちは敵兵に襲われたんですぅ」
「敵襲があったあの日に?」
頷いたベッティはどこか遠くをぼんやり見やる。
「それでわたしはルチア様を先に安全な場所に行かせたんですがぁ……そのあとルチア様は錯乱状態で保護されたと聞きましたぁ」
「錯乱状態で……?」
「騎士団の話ではぁ、ルチア様は必死に誰かを探してたってぇ。なのにその場にそれらしい人物はいなかったそうなんですぅ」
「誰かって……もしかしてルチア様はカイ様を……?」
「はいぃ、でも騎士団の誰もがそんな人物は知らないって言い出してぇ」
エラも、マテアスも、エマニュエルも。みなカイを覚えていなかった。
龍に記憶を消されたのだ。その事実が確定となり、堪らずリーゼロッテはベッティを強く抱きしめた。
「実はわたしもぉ、坊ちゃまの名前をぉ……どぼじても口にでぎなぐってぇっ」
泣くまいとするベッティが、耳元で必死に歯を食いしばっている。
ずっとひとりきりで耐えていたのかもしれない。リーゼロッテの背に回された手に、痛いくらい力が籠められた。
「ジークヴァルト様も同じご様子だった……」
何の慰めにもならないと分かっていても、そう伝えずにはいられなかった。悲しみを分かち合える者がいる。それがせめてもの支えとなるように。
互いの肩口に顔をうずめ、しばらくふたり抱き締め合った。
長く息を吐いたあと、ようやくベッティは頭を上げた。目を真っ赤にしているリーゼロッテとは正反対に、ベッティの瞳は未だ平静を保ち続けている。
その姿が余計に痛ましく映った。泣けないでいるベッティの代わりのように、リーゼロッテから止めどなく涙がこぼれ落ちていく。
「ほんとはわたしぃ、うんと前から言われていたんですぅ。坊ちゃまはいつか消えていなくなるってぇ」
「消えて、いなくなる?」
「はいぃ、自分はいずれ星に堕ちるからとぉ」
「星に堕ちる? カイ様はご自分が星を堕とす者になると……初めからそれをご存じだったの……?」
リーゼロッテの疑問にベッティは少し困った顔をした。
「わたしはただ坊ちゃまがいなくなるとだけぇ。それ以上詳しいことは何も聞かされませんでしたぁ」
「そうだったの……」
「だからこんな日が来るってことはぁ、わたしずっと承知していたんですよぅ」
知っていたところで、悲しみが消えてなくなるはずもない。
達観した様子のベッティを前に、リーゼロッテはたまらず大きくしゃくり上げた。
「敵襲があったあの日に?」
頷いたベッティはどこか遠くをぼんやり見やる。
「それでわたしはルチア様を先に安全な場所に行かせたんですがぁ……そのあとルチア様は錯乱状態で保護されたと聞きましたぁ」
「錯乱状態で……?」
「騎士団の話ではぁ、ルチア様は必死に誰かを探してたってぇ。なのにその場にそれらしい人物はいなかったそうなんですぅ」
「誰かって……もしかしてルチア様はカイ様を……?」
「はいぃ、でも騎士団の誰もがそんな人物は知らないって言い出してぇ」
エラも、マテアスも、エマニュエルも。みなカイを覚えていなかった。
龍に記憶を消されたのだ。その事実が確定となり、堪らずリーゼロッテはベッティを強く抱きしめた。
「実はわたしもぉ、坊ちゃまの名前をぉ……どぼじても口にでぎなぐってぇっ」
泣くまいとするベッティが、耳元で必死に歯を食いしばっている。
ずっとひとりきりで耐えていたのかもしれない。リーゼロッテの背に回された手に、痛いくらい力が籠められた。
「ジークヴァルト様も同じご様子だった……」
何の慰めにもならないと分かっていても、そう伝えずにはいられなかった。悲しみを分かち合える者がいる。それがせめてもの支えとなるように。
互いの肩口に顔をうずめ、しばらくふたり抱き締め合った。
長く息を吐いたあと、ようやくベッティは頭を上げた。目を真っ赤にしているリーゼロッテとは正反対に、ベッティの瞳は未だ平静を保ち続けている。
その姿が余計に痛ましく映った。泣けないでいるベッティの代わりのように、リーゼロッテから止めどなく涙がこぼれ落ちていく。
「ほんとはわたしぃ、うんと前から言われていたんですぅ。坊ちゃまはいつか消えていなくなるってぇ」
「消えて、いなくなる?」
「はいぃ、自分はいずれ星に堕ちるからとぉ」
「星に堕ちる? カイ様はご自分が星を堕とす者になると……初めからそれをご存じだったの……?」
リーゼロッテの疑問にベッティは少し困った顔をした。
「わたしはただ坊ちゃまがいなくなるとだけぇ。それ以上詳しいことは何も聞かされませんでしたぁ」
「そうだったの……」
「だからこんな日が来るってことはぁ、わたしずっと承知していたんですよぅ」
知っていたところで、悲しみが消えてなくなるはずもない。
達観した様子のベッティを前に、リーゼロッテはたまらず大きくしゃくり上げた。