嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 丘に入る手前で石畳は途切れ、踏み(なら)されただけの土の小路にルチアは素足で踏み入れた。
 風にさざめく草原(くさはら)の合間で鮮やかな赤毛が弄ばれる。近づかない塀を目指し、おぼつかない足取りでルチアは丘を登って行った。

「ルチア様……!」

 後ろから誰かに手首を掴まれる。
 それでもお構いなしにルチアは進もうとした。回り込んできたリーゼロッテが、薄い夜着の肩をショールで包み込んでくる。

「いけませんわ。ルチア様、もうあちらに戻りましょう?」

 幾分か寒さが和らぐも、カイでない温もりなど欲しくない。
 どう言えば分かってもらえるだろうか。
 霞がかる頭でなんとか答えを探そうと、ルチアは遠く視線を彷徨わせた。

「カイが……」
「え?」
「カイがいないの」

 戸惑った様子のリーゼロッテは、未だこの手を掴んだままだ。

「離して。わたし、カイを探さなきゃ」
「ルチア様……」
「ねぇカイ、どこにいるの? 意地悪しないで早く出てきて」

 振り解こうとするほどに、リーゼロッテが囲い込んでくる。
 強引と思えるほどの引き止めに、力尽きたルチアは草むらに埋もれるように膝から崩れ落ちた。

 なぜ誰も分かってくれないのか。
 さみしくて、苦しくて、顔が見たいだけなのに。
 リーゼロッテに縋りながら、止めどなく涙が溢れ出る。

「カイ、どうして……どうして会いに来てくれないの?」

 しゃくり上げると苦しいくらいに抱きしめられた。
 カイのいない世界はぐちゃぐちゃで、何を信じたらいいのかも分からない。

 リーゼロッテを突っぱねて、幼な子のようにいやいやと首を振る。
 傾く夕日があの日の(あか)を思わせた。その輝きを遮って、ふいにルチアに人影が落とされる。
 息を飲んだリーゼロッテにつられるように、ルチアもその人物をぼんやり仰ぎ見た。

「なんだ、ロッテ。お困りごとか?」

 そこに立っていた銀髪の男は、くたびれた布袋を肩にひっかけこちらを見下ろしている。

「イグナーツ……父様……?」
「おう、久しぶりだな、リーゼロッテ」

 茜色を背に、イグナーツはつり気味の瞳を愉快そうに細めた。







 嘘つきな騎士と破られた託宣 終

▶裏切りの神官と託宣の呪い(龍の託宣7)に続く






※このあと続けて登場人物紹介と番外編を2話、龍の託宣7あらすじ先出しを投稿します
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