嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 ブランケットに隠れてふたりはこそこそ何かを言い合っている。
 バレていないとでも思っているのだろうが、いちゃついているのが丸わかりだ。
 あんな光景をこれまでは遠い目をしてやり過ごしてきた。
 だが今はエラがいる。ダメージを負う理由は皆無。もはやマテアスに一切の死角なしだ。

 最愛の妻に視線を戻すと、そのエラもリーゼロッテたちをじっと見つめていた。
 しばらく黙って見下ろしていたが、いくら待てどもエラはいたずらに食べる手を止めたままでいる。
 我がことのように幸せな表情(かお)をして、布越しにもぞもぞ動くふたりの動向を見守り続ける。このままでは折角のハーブティーが冷め切ってしまいそうだ。
 何よりエラの意識がマテアスのもてなしから逸れてしまい、それが少しばかり面白くなく感じられた。
 時計を見ると休憩時間も残り僅か。
 そんなときふとマテアスにいたずら心が湧いてきた。

 無防備な肩を指でとんとん叩く。
 はっとしたエラがこちらを向いたところで、マテアスは素早く唇を奪い取った。
 エラがぽかんとマテアスを見上げている。
 してやったりと笑みを刷き、ついでにウィンクも飛ばしてみせた。この糸目でそれが伝わったかどうか少々怪しいところだが。

 仕事とプライベートをきちんと分けることは、初めに決めたふたりの絶対ルールだ。だがたまにはこんな時間も許されたっていいだろう。
 抗議の声を上げかけたエラに向け、マテアスはしっと人差し指を口元にあてた。遅れて頬を染めたエラが、不服そうに唇を尖らせる。
 それがなんとも可愛らしく目に映るも、何食わぬ顔でマテアスは続きのケーキを促した。
 仕方がないといったような笑顔になって、エラは再びフォークに手を伸ばす。

 最後の一口のカップが皿に戻されたとき、ちょうど時計の針は休憩時間の終わりを告げた。







 番外編《小話》たまにはこんなひと時も おわり




< 585 / 595 >

この作品をシェア

pagetop