嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
     ◇
 へリング家のタウンハウスの呼び鈴を鳴らすと、クラーラはすぐに現れた。
 平凡な顔立ち、平凡な髪型、平凡な装い。どこをとっても特徴らしきものが見つからない。

(うーん……クラーラ嬢も自分が選ばれるとは思っていないのだろうけど)

 辛うじて今流行りの帽子と日よけ傘を手にしているが、こうやってエルヴィン自らが迎えに来たのだ。もう少し何とかする気があってもいいのでないだろうか。
 ほかの令嬢たちは気合いの入った着飾りようで、少しでも良く見せようと必死になっている者ばかりだった。

(やっぱりこの()はこれで最後だな)

 適当に理由を付けて、さっさとデートを終わらせてしまおう。
 そのうち雨が降りそうな鈍色(にびいろ)の空も、エルヴィンに味方をしてくれそうだ。

「では行こうか。クラーラ嬢、どこか行きたい場所はあるかい?」

 手を引いて馬車へエスコートする。本来なら今日は乗馬の約束をしていたが、天候の関係でそれはお流れになってしまった。
 きちんとデートプランを立てるのは、誘った側の礼儀と言えた。しかしどうでもよくなった相手となると、見切りが早くなっても仕方があるまい。
 そんなことよりも残りの候補の令嬢の中から誰を選ぶべきかと、エルヴィンの思考は既にそっちの方に移ってしまっていた。

(これまでクラーラ嬢から自分の意見が出たことはなかったしな)

 それならば貴族御用達のカフェにでも連れて行こうかとなったとき、意外にも先にクラーラが口を開いた。

「あ、あの、よろしければ王都の中心にある公園でお散歩でも……」
「公園で散歩を? 本当にそんなのでいいのかい?」
「はい、わたし、じゃなかった、わたくしあそこの噴水を見るのが大好きで」

 もじもじ言ったクラーラは、はっとして急にわたわたと焦りだした。
 その落ち着きのなさは、どうにも(せわ)しない小動物を思わせる。

「あっ、で、でもっ、え、え、エルヴィン様がお好きなところでぜんぜんっ」
「いいよ、ふたりで噴水を見に行こう」

 野外にいた方が雨を理由に解散できる。
 笑顔の奥でそう目論んだエルヴィンは、クラーラを馬車に乗せ公園入口まで移動した。

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