嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「この時期名物の通り雨だね。仕方ない。過ぎるまでしばらく待とうか」

 濡れていないと言ったクラーラは、それでも前髪に細かい雫を纏わせている。
 縮こまっている肩が寒そうで、エルヴィンは握ったままだった手を引き寄せた。

「もっとこっちにおいで。濡れてしまっては大変だ」
「ひゃいっ」
「上着をかけただけだよ? そんなに怖がらなくたって」
「わたわたわたくし、そそそそんなつもりじゃっ」
「ははは、分かっているよ。クラーラ嬢はほんと見ていて飽きないね」

 およそ令嬢相手に言う褒め言葉ではなかったが、それがエルヴィンの素直な感想だった。さながら、わちゃわちゃと動くハムスターを眺めている子供の気分とでも言うべきか。
 どの道、恋愛感情にはほど遠い。いくら関心を引かれても時間つぶし程度の話のことだ。
 改めて間近でみるクラーラの装いに、ふと違和感を覚えてエルヴィンは首を傾げた。

「あれ? クラーラ嬢、この前あげた宝飾は? もしかして気に入らなかったのかい?」
「あっ、いえっ、あのっ、あ、あれは失くしたり壊したりしたらいけないって思って……!」

 正直クラーラに何を贈ったのか、エルヴィンは思い出せないでいた。しかし令嬢ひとりひとりにそれなりの物を贈っているはずだ。
 それぞれの家格に合った、それでいて大幅に差を感じさせることのない。そんな絶妙な品選びには苦労した。もっとも、どれを誰にあげるかなどは、行商の男の目利き任せにしたのだが。
 次のデートには令嬢たちはこぞって贈った物を身に着けてきた。だがクラーラはそれどころかまったく飾りっ気のないシンプルな出で立ちだ。

「ん……? これはわたしが贈った物ではないね」

 エルヴィンの上着の下に隠れていた青いブローチが目に留まる。
 あんな宝飾は行商のラインナップにはなかったはずだ。

「ここここれは魔よけのブローチでっ」
「魔除け?」
「はいっ、リーゼロッテ様にいただいた大切なものなんですっ」

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