嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-

第7話 星読みの神殿

 目の前に立つ騎士服姿の(おい)に、イジドーラは目を細めた。小さかったあのカイが、いつの間にかこんなにも立派になったものだ。

「今回は長くかかりそうなのね」
「この天候ですし、ティビシス神殿は国のはずれにありますからね。それに王都を出たついでに、あちこち回ってこようと思うので」
「そう……」
「白の夜会までには戻りますから。今年は令嬢姿になる必要はないんですよね?」
「ええ、残念だけれど」

 口惜しく言ったイジドーラを見て、カイは小さく笑う。その表情(かお)は幼いころの面影を残したままだ。

「もうそろそろ諦めません? オレもそれなりに背が伸びましたし、最近カロリーネの声も出しづらくって」
「あら、まだまだいけるわよ。話さなければどうとでもなるわ」
「では必要に応じて、イジドーラ様の仰せのままに」

 大仰に、カイはゆっくりと腰を折った。

「じゃあ行ってきます。大雪にならないこと、どうか祈っててください」

 琥珀の瞳が遥かを見やる。心はすでに遠い任務の地にあるのだろう。

 ――これが今生(こんじょう)の別れになるかもしれない
 そのつもりで、イジドーラはいつもカイを送り出す。

「戻ったらすぐに顔をお見せなさい。ティビシス神殿の話もそのときに聞きたいわ」
「はい、いちばんに報告に上がります」

 それでもふたりは、次の約束を交わし合う。いつか果たされなくなる時が、必ず来ると知りながら。

 静かに閉められた扉を、長い時間イジドーラはひとり見つめていた。失意のうちに亡くなった姉の顔が、その脳裏にふとよぎる。

 ティビシス神殿はベアトリーセが熱心に通っていた神殿だ。敬虔(けいけん)で、あれだけ慈悲深かった姉が、カイに与えた傷はあまりにも深すぎる。

「龍の託宣……」

 すべての始まりはそれに尽きた。いまだ続く理不尽な悲劇は、青龍の手で定められたのだから。だがどうしてこれが、国の泰平へと結びつくというのか。

 口には出せない問答が、今日もまた胸の内で繰り返される。

 再びこの手でカイを抱きしめる日が、何事もなくやってくることを、イジドーラはただ願った。

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