嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
     ◇
 初雪が舞ったあとすぐに、ジークヴァルトはリーゼロッテと共に小旅行に出た。夕べはダーミッシュ伯爵家に一泊し、さらに北の山あいにある古びた神殿へと、これから馬車で向かうところだ。

 その地でリーゼロッテと式を挙げ、婚姻の披露を行うように。アンネマリー王妃の突然の命令に、公爵家当主として逆らうことはできなかった。

 神殿などに二度と関わりを持たせたくない。余計なことをと思いつつ、どうにかこうにか調整をつけ、ようやく出発にまでこじつけた。

 シネヴァの森で神事を終え、夫婦となって数か月は経つ。リーゼロッテとの婚姻は社交界で既に周知のことだ。
 形骸化した神殿での式など、欲深い神官どもが貴族から金を巻き上げるための口実でしかない。今さら披露目の婚儀を行う意味など、ジークヴァルトは何ひとつ見いだせなかった。

「ヴァルト様、ご覧くださいませ! あの建物がティビシス神殿でしょうか!?」

 膝の上、揺れる馬車の窓に張り付きながら、リーゼロッテが瞳を輝かせる。山脈の岩肌に、石造りの建物が垣間見えた。

 ティビシス神殿は女神が(まつ)られた数少ない神殿だ。
 王都にあるビエルサール神殿よりも歴史が古く、記録ではこの国最古の神殿とも言われている。青龍信仰が主となる世間では、女神神殿は忘れ去られた存在となっていた。

「あの神殿には女性の神官様がいらっしゃると聞きましたわ。建物は思っていたよりずっと大きいみたい! ヴァルト様、覚えていらっしゃいますか? 本神殿でのアンネマリーの婚儀は、(おごそ)かで夢のように美しかったですわよね。わたくし今思い出しただけでも胸が熱くなってしまって。あ! あの坂を登ればもう神殿でしょうか!? 近くで見ると本当に立派な建物だわ。ああ、早く着かないかしら……!」

 頬を上気させ、リーゼロッテは支離滅裂にしゃべり続ける。出かけるときは多かれ少なかれそんな感じだが、今日はいつも以上にそわそわと始終落ち着かないでいた。

 その様子にジークヴァルトははたと気づく。もしかしたらリーゼロッテは、神殿での婚儀を以前から望んでいたのではないのかと。

「……神殿で式が挙げられるのがそんなにうれしいのか?」
「はい、とても! だってあの日のアンネマリーはみなに祝福されてとてもしあわせそうでしたもの。わたくしずっとアンネマリーが羨ましくて……」
「どうして早くそれを言わなかった」
「だって、わたくしとヴァルト様では、異形たちを騒がせてしまいますでしょう?」

 だから諦めていたのだと、リーゼロッテは静かに微笑んだ。ぎゅっと眉根を寄せて、ジークヴァルトはやわらかい頬に指を滑らせる。

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