月明かりの下で、あなたに恋をした
「……わからない」
「分かるでしょ。顔に出てるよ」
頬が、熱くなるのを感じた。
「彩葉、連絡しなよ。せっかく出会ったんだから」
「でも、何て書けば……」
「『先日はありがとうございました』でいいじゃん。そこから始まるんだよ」
真帆の言葉は、いつもシンプルで的確だ。
「考えてみる」
「考えるだけじゃダメ。行動しなきゃ」
真帆が私の肩を軽く叩いた。
「彩葉。私、あなたのこと心配してたの。ここ最近、ずっと疲れた顔してたから。でも、今日は違う。目に光があるっていうか」
「そんなことない」
「あるよ。だから、その人との縁、大事にしなよ」
私は真帆の言葉に、心が温まるのを感じた。
◇
午前10時。戸田課長との打ち合わせ。
「柊。この化粧品ブランドのリブランディング、お前に任せたい」
課長がタブレットを見せてくれる。ナチュラル系の化粧品ブランド。ターゲットは30代女性。
「コンセプトは『自然体の美しさ』派手じゃなくて、洗練された感じで頼む」
私の目が輝くのが分かった。
「派手じゃなくて、いいんですか?」
「ああ。このブランドは、そういう方向性だ」
嬉しい。久しぶりに、自分の感性を活かせる仕事かもしれない。
「期限は2週間。頑張ってくれ」
「はい!」
私は初めて、心からの『はい』を言った。
◇
その日の夜、帰宅した私は、部屋の隅に積まれた段ボールを見つめた。真帆の言葉が蘇る。
『行動しなきゃ』
そして、葛城さんの言葉も。
『10社に断られたからって、それで終わりじゃない』
私は深呼吸する。開けてみよう。4年ぶりに、あの作品を。
私はしゃがみ込み、段ボール箱に貼られたガムテープに爪を立てた。
手が震える。だけど、もう逃げたくない。
ゆっくりと、ガムテープを剥がしていく。