月明かりの下で、あなたに恋をした

「……わからない」
「分かるでしょ。顔に出てるよ」

頬が、熱くなるのを感じた。

「彩葉、連絡しなよ。せっかく出会ったんだから」

「でも、何て書けば……」

「『先日はありがとうございました』でいいじゃん。そこから始まるんだよ」

真帆の言葉は、いつもシンプルで的確だ。

「考えてみる」
「考えるだけじゃダメ。行動しなきゃ」

真帆が私の肩を軽く叩いた。

「彩葉。私、あなたのこと心配してたの。ここ最近、ずっと疲れた顔してたから。でも、今日は違う。目に光があるっていうか」

「そんなことない」

「あるよ。だから、その人との縁、大事にしなよ」

私は真帆の言葉に、心が温まるのを感じた。



午前10時。戸田課長との打ち合わせ。

「柊。この化粧品ブランドのリブランディング、お前に任せたい」

課長がタブレットを見せてくれる。ナチュラル系の化粧品ブランド。ターゲットは30代女性。

「コンセプトは『自然体の美しさ』派手じゃなくて、洗練された感じで頼む」

私の目が輝くのが分かった。

「派手じゃなくて、いいんですか?」
「ああ。このブランドは、そういう方向性だ」

嬉しい。久しぶりに、自分の感性を活かせる仕事かもしれない。

「期限は2週間。頑張ってくれ」
「はい!」

私は初めて、心からの『はい』を言った。



その日の夜、帰宅した私は、部屋の隅に積まれた段ボールを見つめた。真帆の言葉が蘇る。

『行動しなきゃ』

そして、葛城さんの言葉も。

『10社に断られたからって、それで終わりじゃない』

私は深呼吸する。開けてみよう。4年ぶりに、あの作品を。

私はしゃがみ込み、段ボール箱に貼られたガムテープに爪を立てた。

手が震える。だけど、もう逃げたくない。

ゆっくりと、ガムテープを剥がしていく。
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