月明かりの下で、あなたに恋をした
「少女の表情です。孤独だけど、希望も感じる。月を見上げている姿が、『まだ諦めていない』って……」
言葉にしながら、自分でも驚く。作品について、こんなふうに語ったのは大学以来かもしれない。
男性は静かに頷いた。
「孤独と希望の同居、ですか。俺はむしろ、『諦めかけている』ように見えました」
「え?」
私は思わず彼を見返す。
「諦めかけている?」
彼の瞳は真剣だった。
「ええ。月を見上げているけれど、届かないことを知っている。それでも見上げずにいられない。そういう……切なさを感じて」
その言葉に、胸が詰まった。
確かに、そうも見える。同じ絵なのに、私たちは違うものを見ていたんだ。
「あなたは希望を見たんですね」
彼は静かに言った。
「俺は諦めを見た」
彼はそう言って、また文庫本に視線を落とした。私は、彼の横顔を見つめる。
整った顔立ち。だけど、どこか疲れたような表情。この人は、何を諦めかけているのだろう。
「あの……」
尋ねようとしたとき、彼が名刺を差し出した。