月明かりの下で、あなたに恋をした
「改めて。葛城律と言います」
私は名刺を受け取る。
『陽月社 児童書編集部 葛城律』
児童書の、編集者。その肩書きを見た瞬間、息が止まった。
「絵本の……編集者なんですか?」
「はい」
彼は苦笑する。
「だから、橘マリの作品は、仕事としても個人的にも好きなんです」
私は、慌てて自分の名刺を取り出す。
「柊彩葉です」
葛城さんが名刺を受け取り、じっくりと見る。
「ブライトコミュニケーションズ……有名な広告代理店ですね。デザイナーをされてるんですか?」
「はい。バナー広告とか、チラシとか……」
私は言葉を濁した。葛城さんが真剣な顔になる。
「実は今日、ちょっと逃げてきたんです」
「えっ、逃げて……?」