月明かりの下で、あなたに恋をした
「絵本制作のゼミにいました。卒業制作で、一冊作ったんです。『星降る森のおくりもの』っていう」
「どんな作品ですか?」
私は両手をぎゅっと握りしめる。
「森で迷った少女が、動物たちから密かにおくりものをもらって、居場所を見つける物語です」
葛城さんは静かに聞いている。
「教授には『絵本作家になれる』って言われました。だから、就職活動で出版社を受けたんですが……10社、全部落ちました」
声が小さくなる。葛城さんは急かさず、黙って待っている。
「『才能がない』『今はこういう作風は売れない』って。それで、もう無理だと思って。広告代理店に就職しました」
涙が滲みそうになる。私は眼鏡を外して、目頭を押さえた。
言葉にすると、4年間の痛みが蘇る。
葛城さんが、ハンカチを差し出してくれた。その優しさに、また涙が出そうになる。
「ありがとうございます」
私はハンカチを受け取り、目元を軽く押さえた。
「4年前のことなのに……私、まだ引きずってるんです」
「引きずっていいと思います。それだけ、本気だったってことだ。本気じゃなければ、4年も引きずらない」
彼の言葉に、胸が熱くなった。
「柊さん。10社に断られたからって、それで終わりじゃないです。橘マリは50歳で始めましたよ。柊さんは、今おいくつですか?」
「26です」
「じゃあ、まだまだ時間はある」
私は唇を噛んだ。時計を見ると、午後10時40分。あと20分。
葛城さんが提案した。
「せっかくだから、もう一度展示を見ませんか? 二人だけの、特別な鑑賞時間です」
「はい」