社内では言えないけど ―私と部長の秘匿性高めな恋愛模様―
「必要だそう、ということは、会議に出るのは君じゃないな」
「え……っと」
何気ない言葉尻から鋭く見抜かれ、私は思わず口ごもった。
部長は私の返事を待たずに、傍らの書類の束に目を遣って、厳しく顔をしかめる。
「君は事務職社員か?」
「は、はい」
「これを君に頼んだのは誰だ?」
「そ、それは……」
この流れで村重さんの名前を出したら、きっと彼女は強く叱責される。
そうなることがわかりすぎて、私は言い淀んでしまった。
部長に視線を返せず、目を泳がせる。
そうして重苦しい沈黙が漂ったものの、部長の溜め息に掻き消された。
「どのくらいで終わる?」
「え?」
「何時まで残るつもりだ?」
「え、ええと……」
言葉を変えて訊ねられ、私は部長の後方の壁時計を見遣った。
「あと十五分くらい……そうすれば目処が立つので帰ります」
部長は軽く頷いて、自分の左手首に目を落とした。
黒いスーツの袖から覗かせた、見るからに高級そうな腕時計で時間を確認すると。
「最終退社当番は私が引き受けよう。君はなるべく早く終わらせて帰るように」
「えっ……」
それだけ言って、窓際の自席に歩き出す部長に、私は思わず声をひっくり返らせた。
「私を残らせて申し訳ないと思うなら、急いで済ませることだな」
肩越しに視線を投げられ、肝が縮み上がる。
「は、はいっ」
私は慌てて席に戻り、データ集計作業を再開した。
これ、今日最終退社当番だった田所さんまで怒られる流れじゃないだろうか……?
いや、それ以前に、部長が最終退社当番なんて、きっと前代未聞だ。
引き受けると言われたからって任せたと知れたら、課長からどんなお咎めを受けるか……。
いやがおうでも、冷や汗が噴き出す。
焦りと恐怖と、いろいろな感情が忙しくて、他のことを考えられない。
結局集中できなくなって、私は五分と経たずにギブアップした。
「え……っと」
何気ない言葉尻から鋭く見抜かれ、私は思わず口ごもった。
部長は私の返事を待たずに、傍らの書類の束に目を遣って、厳しく顔をしかめる。
「君は事務職社員か?」
「は、はい」
「これを君に頼んだのは誰だ?」
「そ、それは……」
この流れで村重さんの名前を出したら、きっと彼女は強く叱責される。
そうなることがわかりすぎて、私は言い淀んでしまった。
部長に視線を返せず、目を泳がせる。
そうして重苦しい沈黙が漂ったものの、部長の溜め息に掻き消された。
「どのくらいで終わる?」
「え?」
「何時まで残るつもりだ?」
「え、ええと……」
言葉を変えて訊ねられ、私は部長の後方の壁時計を見遣った。
「あと十五分くらい……そうすれば目処が立つので帰ります」
部長は軽く頷いて、自分の左手首に目を落とした。
黒いスーツの袖から覗かせた、見るからに高級そうな腕時計で時間を確認すると。
「最終退社当番は私が引き受けよう。君はなるべく早く終わらせて帰るように」
「えっ……」
それだけ言って、窓際の自席に歩き出す部長に、私は思わず声をひっくり返らせた。
「私を残らせて申し訳ないと思うなら、急いで済ませることだな」
肩越しに視線を投げられ、肝が縮み上がる。
「は、はいっ」
私は慌てて席に戻り、データ集計作業を再開した。
これ、今日最終退社当番だった田所さんまで怒られる流れじゃないだろうか……?
いや、それ以前に、部長が最終退社当番なんて、きっと前代未聞だ。
引き受けると言われたからって任せたと知れたら、課長からどんなお咎めを受けるか……。
いやがおうでも、冷や汗が噴き出す。
焦りと恐怖と、いろいろな感情が忙しくて、他のことを考えられない。
結局集中できなくなって、私は五分と経たずにギブアップした。