社内では言えないけど ―私と部長の秘匿性高めな恋愛模様―
 それから二日。
 とうとう私も、湯浅部長との個人面談の日を迎えた。
 この手の面談、私が得意なわけがない。
 お知らせが届いた時から憂鬱で、緊張MAXで顔を強張らせ、ギクシャクして会議室のドアをノックした。
「どうぞ」
 中から抑揚のない声に招かれ、ごくりと唾を飲む。
「失礼します……」
 ドアの隙間から顔を覗かせて、室内を窺う。
 長テーブルの向こう側、真ん中の椅子に座る部長を確認して、私は思い切って入室した。
 ドアの前に立ち尽くしていると、部長が書類を捲る手を止め、こちらを見遣った。
「ええと……君は事務職の宇佐美ちひろさん」
「は、はい。宇佐美です」
「時間を取らせてすまない。そこに座ってください」
 部長が私に勧めたのは、自分の対面の席だった。
 まるで、就活の時の面接みたいだ。
 そう思ったが最後、余計に緊張が増してくる。
「はい……」
 私は尻すぼみの返事をして、勧められた椅子に腰かけた。
 一体、どんな話をするんだろう……。
 すでに面談を済ませた先輩たちからは、ほとんど情報を得られなかった。
 おかげで、回答の事前準備はできていない。
 肩にガチガチに力を込め、部長の口が開くのを警戒していると。
「入社三年目、海外事業部では最年少か。……ん? 部内に同期はいないのか」
 年次表でもあるのか、手元に目を落としていた部長が、最後は私に目線を上げて確認してきた。
「は、はい。社内には三十人いますが、うちの部に配属されたのは私一人で……」
 真正面から視線を向けられ、いやがおうでも背筋が伸びる。
 私はオドオドしながらも、なんとか無難に答えることができた。
「そうか。寂しいね」
「え?」
「同期がいないと、寂しいだろう?」
「は……? い、いえ……」
 部長の返しが予想外で、深く考えずに答えてしまった。
 だけど、部長が意外そうに瞬きしているのを見て、答えを間違えたことに気づく。
「そ、そうですね。はい……」
< 18 / 104 >

この作品をシェア

pagetop