社内では言えないけど ―私と部長の秘匿性高めな恋愛模様―
そうだった。
『普通』なら、なんでも話せる同期がいないのは、とても寂しく心細いはず。
現に私には、同じ仕事をする同期と飲みに行ったり、仕事や先輩、上司のことを話す機会がまったくなかった。
でも、そんな機会があっても、私には苦痛なだけだろうし……。
ぎこちない笑顔で取り繕ったけど、誤魔化すことはできなかったようだ。
「聞き方を誤ったな」
部長は手元の書類を一山に重ね、独り言ちるように呟いた。
「困るだろう?と聞くべきだった」
「……?」
「海外事業部は先輩だらけで、後輩もいない。仕事を押し付けられて困っていても、手伝ってくれたり助けてくれる人はいないだろう?」
聞き方を変えても反応の鈍い私を、ぶれない視線で見据えてくる。
「でも、それが私の仕事なので……」
私は質問に戸惑い、首を傾けた。
「仕事とはいえ、理不尽な要求や無茶振りまで請け負うことはない」
部長が口にした『無茶振り』という言葉に、私の心臓はドキッと跳ねる。
口を噤んで俯くと、部長の手が書類の山に伸びるのが見えた。
「勤怠システムを確認させてもらった」
部長はそう言いながら、傍らのファイルを手元に寄せる。
「君の先月の残業時間は計二十二時間。上期末繁忙月なのを考慮しても、一般的な事務職社員と比較してかなり多いと言っていい」
あらかじめ付箋が貼られたページを開いて、先を続けた。
「しかも毎日均等ではなく、週末近くに偏る傾向が見られる。そこで、課長に君の担当業務を確認した。総合職社員の雑用を引き受けていても、残ってやらなければならないほどの業量ではないという答えだった」
「も、申し訳ありません。私の能力不足で……」
「君が他の社員に代わって作り上げた資料やデータは、どれもよくできていて、能力不足とは思わない。チームリーダーや課長は、仕事は丁寧だが時間がかかり、それ故に残業が多いと考えているようだ」
私が謝罪に出るのはお見通しのようで、部長は先回りして退路を断つ。
「残業は仕事熱心さの証と称えられた時代は、とっくに過ぎ去った。社会的にも残業削減が推奨される時代、君の働き方では評価されない。故に頑張ってるのに報われないと、君はいつまでも思い続ける。これが現実だ」
「…………」
理不尽だけど、仕方がないと思っていた現実。
それを、他人の口から流水のように淀みなく指摘されてみると、思った以上に胸にズンとくる。
『普通』なら、なんでも話せる同期がいないのは、とても寂しく心細いはず。
現に私には、同じ仕事をする同期と飲みに行ったり、仕事や先輩、上司のことを話す機会がまったくなかった。
でも、そんな機会があっても、私には苦痛なだけだろうし……。
ぎこちない笑顔で取り繕ったけど、誤魔化すことはできなかったようだ。
「聞き方を誤ったな」
部長は手元の書類を一山に重ね、独り言ちるように呟いた。
「困るだろう?と聞くべきだった」
「……?」
「海外事業部は先輩だらけで、後輩もいない。仕事を押し付けられて困っていても、手伝ってくれたり助けてくれる人はいないだろう?」
聞き方を変えても反応の鈍い私を、ぶれない視線で見据えてくる。
「でも、それが私の仕事なので……」
私は質問に戸惑い、首を傾けた。
「仕事とはいえ、理不尽な要求や無茶振りまで請け負うことはない」
部長が口にした『無茶振り』という言葉に、私の心臓はドキッと跳ねる。
口を噤んで俯くと、部長の手が書類の山に伸びるのが見えた。
「勤怠システムを確認させてもらった」
部長はそう言いながら、傍らのファイルを手元に寄せる。
「君の先月の残業時間は計二十二時間。上期末繁忙月なのを考慮しても、一般的な事務職社員と比較してかなり多いと言っていい」
あらかじめ付箋が貼られたページを開いて、先を続けた。
「しかも毎日均等ではなく、週末近くに偏る傾向が見られる。そこで、課長に君の担当業務を確認した。総合職社員の雑用を引き受けていても、残ってやらなければならないほどの業量ではないという答えだった」
「も、申し訳ありません。私の能力不足で……」
「君が他の社員に代わって作り上げた資料やデータは、どれもよくできていて、能力不足とは思わない。チームリーダーや課長は、仕事は丁寧だが時間がかかり、それ故に残業が多いと考えているようだ」
私が謝罪に出るのはお見通しのようで、部長は先回りして退路を断つ。
「残業は仕事熱心さの証と称えられた時代は、とっくに過ぎ去った。社会的にも残業削減が推奨される時代、君の働き方では評価されない。故に頑張ってるのに報われないと、君はいつまでも思い続ける。これが現実だ」
「…………」
理不尽だけど、仕方がないと思っていた現実。
それを、他人の口から流水のように淀みなく指摘されてみると、思った以上に胸にズンとくる。