社内では言えないけど ―私と部長の秘匿性高めな恋愛模様―
『たとえば人に道を聞かれた時、あなたは話すのが苦手という理由で断りますか? 断らないですよね? 親切に教えてあげられる、それどころか、自ら案内してあげたりもする、そういう人だと思ってます』
前に誰かが、私のブログにそうコメントしてくれた。
『話さなきゃいけない、ではなく、自分の気持ちを知らせる、教えると思えば、少しはハードル下がりませんか?』
そう助言してくれたのは誰だったっけ。
ブログの読者さんたちのユーザーネームを、脳裏に思い巡らせーー。
「私……」
「……ん?」
私の掠れた声に聞き返しながら、部長がゆっくり背を起こす。
「私の仕事は皆さんの補佐だから、できる限りのことはしたいって思ってます」
「それは、よくわかる」
「でも……気持ちよく引き受けられない時もあって」
非難されたらどうしよう。
そんな不安で、私は一度言葉をのみ込む。
恐る恐る目線を上げると、部長はテーブルの上で両手を組み、やや前のめりで聞いていてくれた。
聞くだけじゃなく、『受け止める』。
そんな姿勢の表れのようで、私は思い切って口を開いた。
「間に合いそうにない期限とか、一日では終わらない量とか。もっと早く言ってくれればいいのにって……」
「うん。そうだね」
「だけど私が断って、その人をがっかりさせるのが、なによりも嫌で……」
声を消え入らせ、面を伏せる。
そうーー幼い頃から、なによりもそれが嫌だった。
いつもいつもいつもーー。
出来のいい姉と比べられて、『ちひろはダメね』って言われることには慣れっこだった。
最初から諦められている分にはいい。
でも期待されて応えられなくて、私のせいで人の顔が失望に歪むのを見ると、どうしていいかわからなくなる。
自分が情けなくて、不甲斐なくて堪らなくなって……。
「……なるほど」
うなだれる私に、部長が短い相槌を打った。
おずおずと顔を上げて窺うと、部長はどこか神妙な顔つきで、顎を撫でている。
共感できず、なんと答えるか考えるような仕草に、私はほんの少し失望した。
否定も非難もしない、考えてくれる、それだけで十分だ。
だけど、『部長なら理解してくれるかも』と期待して話した分、残念感が強い。
そして、はたと気づく。
ああ、これがまさに、私にがっかりする人の心情だ。
それを今、私が身をもって経験している。
誰からも認められた超有数のエリート、湯浅部長に対して、私なんかが。
「そ、それだけじゃありません」
あまりに畏れ多くて居たたまれなくなって、私は自ら畳みかけた。
前に誰かが、私のブログにそうコメントしてくれた。
『話さなきゃいけない、ではなく、自分の気持ちを知らせる、教えると思えば、少しはハードル下がりませんか?』
そう助言してくれたのは誰だったっけ。
ブログの読者さんたちのユーザーネームを、脳裏に思い巡らせーー。
「私……」
「……ん?」
私の掠れた声に聞き返しながら、部長がゆっくり背を起こす。
「私の仕事は皆さんの補佐だから、できる限りのことはしたいって思ってます」
「それは、よくわかる」
「でも……気持ちよく引き受けられない時もあって」
非難されたらどうしよう。
そんな不安で、私は一度言葉をのみ込む。
恐る恐る目線を上げると、部長はテーブルの上で両手を組み、やや前のめりで聞いていてくれた。
聞くだけじゃなく、『受け止める』。
そんな姿勢の表れのようで、私は思い切って口を開いた。
「間に合いそうにない期限とか、一日では終わらない量とか。もっと早く言ってくれればいいのにって……」
「うん。そうだね」
「だけど私が断って、その人をがっかりさせるのが、なによりも嫌で……」
声を消え入らせ、面を伏せる。
そうーー幼い頃から、なによりもそれが嫌だった。
いつもいつもいつもーー。
出来のいい姉と比べられて、『ちひろはダメね』って言われることには慣れっこだった。
最初から諦められている分にはいい。
でも期待されて応えられなくて、私のせいで人の顔が失望に歪むのを見ると、どうしていいかわからなくなる。
自分が情けなくて、不甲斐なくて堪らなくなって……。
「……なるほど」
うなだれる私に、部長が短い相槌を打った。
おずおずと顔を上げて窺うと、部長はどこか神妙な顔つきで、顎を撫でている。
共感できず、なんと答えるか考えるような仕草に、私はほんの少し失望した。
否定も非難もしない、考えてくれる、それだけで十分だ。
だけど、『部長なら理解してくれるかも』と期待して話した分、残念感が強い。
そして、はたと気づく。
ああ、これがまさに、私にがっかりする人の心情だ。
それを今、私が身をもって経験している。
誰からも認められた超有数のエリート、湯浅部長に対して、私なんかが。
「そ、それだけじゃありません」
あまりに畏れ多くて居たたまれなくなって、私は自ら畳みかけた。