社内では言えないけど ―私と部長の秘匿性高めな恋愛模様―
「私が引き受けることで、その人の他の仕事が回ります。その方が、部の業績に貢献できるんじゃないかと思って……」
部長の理解を得られそうな話題に転じることで、彼にがっかりする自分を宥めようとした、とってつけたような言い訳、そう言ってもいい。
「ああ。その通りだな」
部長が私の期待通りの反応をしてくれたから、ホッと胸を撫で下ろす。
だけど。
「確かに、事務職と総合職では、求められる役割が根本的に違う。細々とした事務仕事は事務職に任せ、総合職は海外支社や取引先回りをしてもらう方が効率的。だから、君の言う通りではあるが……」
難しい顔をして言葉を切る部長に、不安が広がる。
もしかして、『言い訳だけは一人前だ』とか思われた?
悪い予感に、思わず身を縮める。
ところが。
「君はそれでいいのか?」
予想の斜め上をいく質問を投げられ、一瞬理解が遅れた。
「……え?」
瞬きを繰り返しながら、聞き返す。
「自分で言ったじゃないか。気持ちよく引き受けられないと。それでも、結果的に君は引き受けている。であれば、君の心は悲鳴をあげているはずだ。だから、それでいいのか?と聞いた」
「っ……」
鋭くストレートな指摘が胸に響く。
思わず息をのむ私の前で、部長は長い足を組み上げた。
「君のような人、私も何人か知っている」
穏やかに言って、静かに目蓋を閉じる。
「最初の部署の後輩も、前部署の部下もそういうタイプだったな……自分を犠牲にして頑張って苦しくなる人って、君が思うほど少なくはない」
部長は今、私に話しながら彼らを思い浮かべているのかもしれない。
言葉を切り、ゆっくり目を開けると、再びこちらに目線を上げた。
「組織としては、業績アップを目指さなければならない。だがその陰で辛い思いをしている者がいては問題だ。部長として、見逃しておけない」
深い茶色の瞳には、真摯というに相応しい強い目力が込められている。
私はまるで射竦められたみたいに、身じろぎはもちろん、目を逸らすこともできない。
お互い無言のまま、わずかな時間が流れーー。
「……すまない」
部長がふっと目力を解き、先に沈黙を破った。
「教えてくれてありがとう。悪いようにはしないから、安心してほしい」
「…………」
初めて部長と言葉を交わした時、私が感じた説明が難しい温かみ。
それが今の言葉からは、よりはっきりと伝わってきた。
私の胸にダイレクトに届き、沁み入って響き渡る。
そのせいか、全身がじんわりと温かい。
そんな感覚に戸惑う私に構わず、部長は自分の左手首に目を落とした。
「そろそろ時間だな」
「え……?」
部長の言葉で我に返り、私も自分の腕時計で確認した。
部長の理解を得られそうな話題に転じることで、彼にがっかりする自分を宥めようとした、とってつけたような言い訳、そう言ってもいい。
「ああ。その通りだな」
部長が私の期待通りの反応をしてくれたから、ホッと胸を撫で下ろす。
だけど。
「確かに、事務職と総合職では、求められる役割が根本的に違う。細々とした事務仕事は事務職に任せ、総合職は海外支社や取引先回りをしてもらう方が効率的。だから、君の言う通りではあるが……」
難しい顔をして言葉を切る部長に、不安が広がる。
もしかして、『言い訳だけは一人前だ』とか思われた?
悪い予感に、思わず身を縮める。
ところが。
「君はそれでいいのか?」
予想の斜め上をいく質問を投げられ、一瞬理解が遅れた。
「……え?」
瞬きを繰り返しながら、聞き返す。
「自分で言ったじゃないか。気持ちよく引き受けられないと。それでも、結果的に君は引き受けている。であれば、君の心は悲鳴をあげているはずだ。だから、それでいいのか?と聞いた」
「っ……」
鋭くストレートな指摘が胸に響く。
思わず息をのむ私の前で、部長は長い足を組み上げた。
「君のような人、私も何人か知っている」
穏やかに言って、静かに目蓋を閉じる。
「最初の部署の後輩も、前部署の部下もそういうタイプだったな……自分を犠牲にして頑張って苦しくなる人って、君が思うほど少なくはない」
部長は今、私に話しながら彼らを思い浮かべているのかもしれない。
言葉を切り、ゆっくり目を開けると、再びこちらに目線を上げた。
「組織としては、業績アップを目指さなければならない。だがその陰で辛い思いをしている者がいては問題だ。部長として、見逃しておけない」
深い茶色の瞳には、真摯というに相応しい強い目力が込められている。
私はまるで射竦められたみたいに、身じろぎはもちろん、目を逸らすこともできない。
お互い無言のまま、わずかな時間が流れーー。
「……すまない」
部長がふっと目力を解き、先に沈黙を破った。
「教えてくれてありがとう。悪いようにはしないから、安心してほしい」
「…………」
初めて部長と言葉を交わした時、私が感じた説明が難しい温かみ。
それが今の言葉からは、よりはっきりと伝わってきた。
私の胸にダイレクトに届き、沁み入って響き渡る。
そのせいか、全身がじんわりと温かい。
そんな感覚に戸惑う私に構わず、部長は自分の左手首に目を落とした。
「そろそろ時間だな」
「え……?」
部長の言葉で我に返り、私も自分の腕時計で確認した。