社内では言えないけど ―私と部長の秘匿性高めな恋愛模様―
 その日、急ぎの仕事を終わらせてから、私は遅めのランチ休憩に入った。
 ランチタイムのピークを過ぎ、営業終了間近の社員食堂は人の姿も疎らだ。
 私は悠々と四人掛けテーブルを占領して、持参したお弁当を開いた。
 今日は昨日ほどじゃないけど、そこそこ上手く出来た。
 卵焼きも野菜の肉巻きも、食べるのを結構楽しみにしていた。
「いただきます」
 両手を合わせ、箸を持つ。
 まずは昨日の残りのポテトサラダを一口。
「うん」
 一日経っても十分美味しい。
 私は満足して頷くと、テーブルに置いたスマホに指を滑らせた。
 朝送信した返事に対し、さらにコメントがつくことは時々ある。
 それに対して再返信するとエンドレス状態になるので避けるけど、もちろん、楽しみにチェックしている。
 今日は一件だけ。
 送信された時間帯からして、普通に会社勤めの人じゃなさそう。
 在宅ワークなのかもしれないし、主婦の可能性もある。
 コメントの感じからは考えにくいけど、もしかしたら学生とか?
 ものすごーく大人びていたら、十分有り得る……。
 つい詮索しかけて、私は慌てて思考を停止した。
 不特定多数の人と交流できるネット社会で、ブログの管理人である私自身はもちろん、読者さんについても身バレに繋がる行動は控えなければ。
 直接質問するのは言わずもがな、深く考えることも厳禁。
 インターネットは、悪事を働く人にとっても平等に便利なものだ。
 SNSほどのリアリティはないとはいえ、ブログだって絶対安全とは言い切れない。
 私はそのコメントを確認して、ブログを終了した。
 そのままWEBアプリを開き、オフィス近くのパティスリーのホームページを検索する。
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