社内では言えないけど ―私と部長の秘匿性高めな恋愛模様―
「噂に違わない、バリバリの切れ者って感じー」
私の前に立っていた女性の先輩が、隣の先輩に小声で話しかけるのが聞こえた。
「我が社史上最速、最年少で部長就任したやり手だもんね。そりゃ、凄腕に違いないでしょ」
「最年少って、幾つで?」
「確か、去年運航事業部で部長に就任した時、三十四歳とか……」
先輩たちのコソコソ話に、ついつい私も耳を澄ましてしまう。
どうやら、相当すごい人らしい……。
畏れ多くはあるものの、ちょっとした好奇心もあり、私はそっと背伸びをしてみた。
なるほど、最速、最年少で部長就任。
遠目ではあるものの、確かに今までの部長よりだいぶ若い。
しかも今三十五歳とすると、課長より年下なんじゃ……?
私が踵を下ろすと同時に、一人の先輩がもう一人に「でもさ」と耳打ちした。
「怖そうだけど、結構イケメンじゃない?」
「あ、やっぱりそう思った? 私、わりとタイプかもっ」
「仕事は厳しく、プライベートはめちゃ甘とかなら、むしろいい……」
「そこ!」
突然マイクがキーンとハウリングして、司会者の課長の割れた声が響いた。
「部長がご挨拶中だぞっ。なにをコソコソ話してる!」
「すっ、すみません」
指をさされた先輩たちが、弾かれたように背筋を伸ばす。
「まったく」
課長が苦虫を噛み潰したような顔をして、先輩たちは首を縮めた。
そして、課長の視線が他に移るのを確認して、
「古西のヤツ、マジうざー……」
「典型的、中間管理職」
心底うんざりした顔で、今度はコソコソと陰口を続ける。
私はそんな二人にビクビクしながら、改めて前方を見遣った。
すると、思いがけず、新部長がこちらを向いて……。
「っ」
目が合った気がして、反射的に顔を伏せた。
左に寄って、先輩たちの陰に隠れる。
課長からマイクを受け取ったチーム主任が報告を始める中、私はドッドッと跳ねる胸に手を置いた。
そっと顔を出して前方を窺うと、新部長はもうこちらを見てはいなかった。
その鋭い瞳はチーム主任に向けられていて、私はホッと胸を撫で下ろした。
っていうか……『目が合った』なんて、自意識過剰にもほどがあった。
周りの先輩たちは、一流企業の社員らしく、能力も見た目も華々しい人たちばかりだ。
オンもオフも目いっぱい楽しんで、人生を謳歌している今時っぽい女性たちで、いつもメイクばっちり、流行を取り入れたおしゃれな服装で決まっている。
私の前に立っていた女性の先輩が、隣の先輩に小声で話しかけるのが聞こえた。
「我が社史上最速、最年少で部長就任したやり手だもんね。そりゃ、凄腕に違いないでしょ」
「最年少って、幾つで?」
「確か、去年運航事業部で部長に就任した時、三十四歳とか……」
先輩たちのコソコソ話に、ついつい私も耳を澄ましてしまう。
どうやら、相当すごい人らしい……。
畏れ多くはあるものの、ちょっとした好奇心もあり、私はそっと背伸びをしてみた。
なるほど、最速、最年少で部長就任。
遠目ではあるものの、確かに今までの部長よりだいぶ若い。
しかも今三十五歳とすると、課長より年下なんじゃ……?
私が踵を下ろすと同時に、一人の先輩がもう一人に「でもさ」と耳打ちした。
「怖そうだけど、結構イケメンじゃない?」
「あ、やっぱりそう思った? 私、わりとタイプかもっ」
「仕事は厳しく、プライベートはめちゃ甘とかなら、むしろいい……」
「そこ!」
突然マイクがキーンとハウリングして、司会者の課長の割れた声が響いた。
「部長がご挨拶中だぞっ。なにをコソコソ話してる!」
「すっ、すみません」
指をさされた先輩たちが、弾かれたように背筋を伸ばす。
「まったく」
課長が苦虫を噛み潰したような顔をして、先輩たちは首を縮めた。
そして、課長の視線が他に移るのを確認して、
「古西のヤツ、マジうざー……」
「典型的、中間管理職」
心底うんざりした顔で、今度はコソコソと陰口を続ける。
私はそんな二人にビクビクしながら、改めて前方を見遣った。
すると、思いがけず、新部長がこちらを向いて……。
「っ」
目が合った気がして、反射的に顔を伏せた。
左に寄って、先輩たちの陰に隠れる。
課長からマイクを受け取ったチーム主任が報告を始める中、私はドッドッと跳ねる胸に手を置いた。
そっと顔を出して前方を窺うと、新部長はもうこちらを見てはいなかった。
その鋭い瞳はチーム主任に向けられていて、私はホッと胸を撫で下ろした。
っていうか……『目が合った』なんて、自意識過剰にもほどがあった。
周りの先輩たちは、一流企業の社員らしく、能力も見た目も華々しい人たちばかりだ。
オンもオフも目いっぱい楽しんで、人生を謳歌している今時っぽい女性たちで、いつもメイクばっちり、流行を取り入れたおしゃれな服装で決まっている。