社内では言えないけど ―私と部長の秘匿性高めな恋愛模様―
 会議が終了し、司会が閉会を告げても、私の心臓はドキドキしたまま。
 ーー新プロジェクトチームの、専属アシスタント?
 私が?
 これって、大抜擢っていうんじゃ……?
 今までの人生で、まったく縁がなかったワード。
 もちろん、これからだって無縁だと思っていた事態に、思考回路が上手く機能しない。
 周りの先輩たちが、一人、また一人と席を立ち、会議室から出ていく。
 私はその様子をポーッとして眺めていたけれどーー。
「っ……湯浅部長っ……!」
 湯浅部長が出口に向かうのを見て、弾かれたように腰を上げた。
 部長が足を止め、こちらを振り返る。
「あ、あの。私……」
 なにを言いたいのか、自分でもわからない。
 それでも居ても立ってもいられず、私は部長に駆け寄った。
 目の前まで行くと、背の高い部長が顎を引いて見下ろしてくる。
「私……本当に私で大丈夫ですか。新プロジェクトの専属なんて、そんな大役……」
「君じゃなきゃ、できない役割だ」
 興奮しながらも困惑を隠せない私を、部長は静かに遮った。
「新チームのメンバーは、みな優秀だ。彼らのサポートということは、君はこれまでよりハイレベルな仕事を担うことになる」
「は、はい」
「だが、今までのように、無茶な押しつけはなくなるだろうから、より丁寧に仕事ができる。そういう環境こそ、君にぴったりだ」
「…………」
 私は瞬きも忘れて、部長を見上げた。
 私にぴったり。
 そんなこと、今まで言われたことがなかった。
 そもそも、私という存在を気にかけてくれる人なんて、どこにもいなかったのだから。
 私になにが合っているかとか、どうしたら能力を伸ばせるかとか、私のために考えてくれた人なんて、誰一人としてーー。
 部長は、「それでは」と言って、踵を返した。
 姿勢よく、颯爽と歩く背中を、私はただ見送った。
 なにかが込み上げてきて、胸が熱い。
 しっかりと両足に力を入れていないとへたり込んでしまいそうなくらい、頭がふわふわしていた。
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