社内では言えないけど ―私と部長の秘匿性高めな恋愛模様―
『私の人生で初めての、すごいことがありました。会社で新しいプロジェクトチームのメンバーに選ばれたんです』
 帰宅後も浮き足立つ気分は収まらず、私は『びっくりなご報告』と題してブログを書いた。
『全社を挙げて取り組んできた大計画の始動プロジェクト。光栄だけど、私なんかでいいんだろうかという不安もあります。でも、なによりも嬉しかったのが、私を抜擢した理由を聞いた際の、上司の言葉でした』
 脳裏に思い浮かべると、なにかきゅんと胸が疼く。
『君じゃなきゃ、できない役割だ』
『そういう環境こそ、君にぴったりだ』
 そのままをキーで叩いてみて、一度ジッと見つめてから、気恥ずかしくなってデリートした。
『こんな私のことを見ていて、理解してくれた人がいる。それだけじゃなく、評価して、伸ばそうとしてくれた。心が震えるほど嬉しかったんです』
 部長の言葉は大事に胸にしまっておいて、そこから感じた喜びを綴り直す。
『これからもっともっと頑張ろう……そう思わせてくれる上司に出会えたこと、本当に感謝しています』
 自分で読み返しても、ちょっと浮かれすぎかな、と思ったけど、間違いなくこれが、今の私のテンション。
 だから、そのままで公開した。
 投稿が完了すると、大きく頭を仰け反らせて天井を仰ぐ。
 湯浅部長が着任して、まだ一ヵ月ほど。
 それからというもの、私のブログの内容はちょっと明るくなった。
 それもあってか、普段よりコメントが多く、読者さんとのやり取りもまた楽しみだ。
 いいことが増えた、嬉しいことがあった、そんな日常が続いている。
 部長って、私の福の神みたいーー。
 部内では鬼神とまで呼ばれる人を、そんな風に思えるのは私だけだろうか。
 不思議な優越感が、ちょっと楽しい。
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