社内では言えないけど ―私と部長の秘匿性高めな恋愛模様―
 週明け月曜日の出社は、いつもちょっぴり憂鬱なものだけど、今日は晴れやかな気分だった。
 今日から私は新しいプロジェクトチームの一員なのだから。
「おはようございます」
 席に着き挨拶をすると、すでに仕事を始めていた総合職の先輩たちが、顔を上げてくれた。
「おはよう、宇佐美さん。朝一で初ミーティング始めるから、出席の準備しといてね」
「はい」
 金曜日の終業後、すでに席替えは済ませてあった。
 今日からは今までとは別の島。
 私はチームリーダーの光山(みつやま)さんの隣だ。
 今まで別のチームだったけど、とても優秀な人なのは知っている。
 部内の女子たちが「海外事業部一の出世株」と、陰で密かに騒いでいるのは、私の耳にも届いていた。
 これからは、そんな人の隣でお仕事か……。
 ちょっぴり恐縮気味に腰かけると、それを待っていたかのように、光山さんがこちらに椅子ごと寄ってきた。
「それぞれの業務の割り振りはミーティングで発表するけど、とりあえずそれまでの間に、グラフ作ってもらえるかな。元データはメールで送ってあるから」
「はい。わかりました」
 私の返事を聞くと、彼は「よし」と笑って自席に戻っていった。
 私はパソコンの起動を待つ間、まずマグボトルのお茶を飲んで喉を潤した。
 そして、目立たないように、島全体に視線を走らせる。
 みんな談笑しているけど、仕事の手は止まっていない。
 大プロジェクトの選抜チームだからって、ピリピリした感じはまったくない。
 とても和やかな雰囲気に、私はホッと息をついて安堵した。
 今までが悪いってわけじゃないけど、このチームの空気は明らかに研ぎ澄まされている。
 元々高い能力があって選出された人たちが、みな密かな闘志と熱意を湛えているのがしっかり伝わってきて、自然と私も気が引き締まる。
 緊張してるけど、嫌な感じじゃない。
 私も頑張らなきゃ!って、モチベーションが上がる高揚感だ。
 パソコンが起動すると、光山さんに言われたメールを確認した。
 添付されていたエクセルの表は整然とまとまっていて、指示も明確。
 今までと同じ作業でも、すごくやりやすい。
 いつもより調子良くマウスが動くし、キーを叩く指も軽やかだ。
 仕事に気分が乗るって、こういうことなのかな。
 社会人三年目にして初めての発見だ。
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