社内では言えないけど ―私と部長の秘匿性高めな恋愛模様―
 この後の用って、仕事だろうか?
 スーツだしその可能性が高いけど、普段より少し寛いだ感じがするのは、髪のセットが緩めなせいかな……?
 ついつい部長の予定を詮索して、私が向ける視線は不躾だったのかもしれない。
 部長はグラスをテーブルに戻すと、怪訝そうに首を傾げた。
「どうかしたか?」
「あ! い、いえっ。すみません、ジロジロと……」
 肩を力ませ、ぎゅっと目を瞑って頭を下げると、わずかな間の後、小さな溜め息が聞こえた。
 そして。
「宇佐美さん。そんなに私は怖いか?」
「……え?」
 部長の質問を、一旦自分の中で咀嚼して、私は部長にまっすぐ視線を返した。
「今、君は怯えているんじゃないか?」
 言葉を変えただけのストレートな質問に、否定を忘れて困惑する。
「えっと……?」
 曖昧に首を傾げると、部長はきまり悪そうに目を逸らした。
「自覚はしているんだ。私は周りの人間に怖がられる。部長に昇進する以前から、ずっと」
 そう言って、溜め息を重ねる。
「海外事業部では、鬼を通り越して鬼神とまで言われているようだし……」
「っ! ごほっ……」
「忌憚ない意見を言ってくれないか? 君も私を怖がってるのか?」
 きっと、部長にとっては切実な悩みなのだろう。
 思わず噎せ返った私に、前のめりになって訊ねてくる。
 自覚はしてると言ったし、自分でもなんとかしたいと考えていて、でもどうにもならなかったんだと思う。
 そうやって、長年悩んできたのかもしれない。
 そんな部長に、私はちょっぴり親近感を覚えていた。
< 49 / 104 >

この作品をシェア

pagetop