社内では言えないけど ―私と部長の秘匿性高めな恋愛模様―
 しっかりと背筋を伸ばし、慎重に言葉を選んで……。
「気分を害されるかもしれませんが……確かに私も、最初は怖い人なのかなと思いました」
「やっぱり」
 部長は即座に独り言ち、がっかりしたような溜め息をついた。
 いつもの私なら、人のそんな反応に怯み、なにも言えなくなるところだ。
 でも、相手が部長だから。
 真剣に、私に意見を求めてくれた人だから、私も部長の方に身を乗り出した。
「でも、理由は主に偏見からです。社内史上最速で部長に昇進したとても優秀な人。海外事業部のトップで偉い人、他人の噂話、ええと……それから……」
 臨時朝礼で初めて部長を見た時のことを、必死に思い出して告げる。
 すると、部長もゆっくり私に視線を戻してくれた。
「あと、背が高くて堂々としていて、とても綺麗な顔立ちなのも、箔がつくというか」
「見た目については、今さらどうしようもない」
「あまり表情が動かないのも、怖そうと思った理由です」
 顔をしかめてかぶりを振られても、私は負けじと畳みかけた。
「表情……」
 部長も思うところがあったのか、顎を摩って反芻する。
「はい。湯浅部長、あんまり笑わないじゃないですか」
 私は大きく頷いて胸を張った。
「……なるほどな」
 納得してくれたのか、部長はわずかに眉根を寄せて相槌を打つ。
「僭越ですが、もったいないな、と思ってました」
 私がそう付け加えると、ゆっくりと首を捻った。
「もったいない?」
「はい。だって部長、笑うととても優しいから」
「優しい? 私がか?」
「はいっ」
 私は自信たっぷりに肯定してみせる。
 すると、部長は目を丸くしてから、その目尻に小さな皺を作って細めた。
「……そうか」
「あ、今! 今の表情です」
 私が思わず腰を浮かせた時、店員が両手にトレーを持ってこちらにやって来た。
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