社内では言えないけど ―私と部長の秘匿性高めな恋愛模様―
 それがちょっぴりおかしくて……。
「いいえ。そうですね。私と部長は、間違いなく似た者同士です」
 私は大きく頷いてはにかんで見せた。
 部長も、ホッとしたような表情を浮かべた。
 焼きたてのクロワッサンを手に取り、千切ってバターを塗りながら……。
「どうだ、ちょっと競争しないか?」
「競争?」
 意外な提案を聞いて、部長に倣って食事を再開した私の手が止まる。
「そう」
 部長は、クロワッサンを口に放って頷いた。
「それぞれの苦手や悩みを、先に克服できるのはどちらか」
 部長が軽く手振りして説明するのに、私は瞬きを繰り返す。
 そして。
「部長は、部下に怖がられない上司になるってことですか?」
「そして君は、せめて今のチームの中だけでも、今みたいに話せるようになる」
 長い人差し指で指さされ、思わず軽く背を引いた。
 だけど、その提案にはワクワクする。
 オフィスでも、今みたいに柔らかい表情の部長を見られるなら、私も頑張れるかもしれない。
 海外事業部のトップの部長と、末端社員の私の秘密の競争、絶対にワクワクしかないーー!
「わかりました。私、頑張ります」
「ああ」
 胸を張って、挑戦に応えた私に、部長は目を細めて頷いた。
「君は気張らなくとも、いずれ話せるようになると思う。……問題は、私の方だな」
 私には心強い言葉をかけてくれたのに、一瞬にして表情を曇らせる。
「いきなり表情を動かせと言われてもなあ……。頬の筋肉が引き攣らなきゃいいんだが……」
 本当に自信なさそうに、物憂げに眉を寄せるからーー。
「ふっ、ふふ……」
 私は吹き出しそうになるのを堪えるのが精一杯だった。
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