社内では言えないけど ―私と部長の秘匿性高めな恋愛模様―
 な……なんで? なんで、なんで……!?
 なんでそんな風に思われるの?
『いい人だってベタ褒め』って、私、部長のことそんなに褒めてた!?
 確かに……オフィスが居心地よくなったのは部長のおかげだし、感謝してもしきれないけど、それをまさか『恋』と勘違いされるなんて。
 頭の中が大パニックで、私はここ一月ほどのブログを一から読み返した。
 ーーほら、やっぱり。私の認識で間違ってない。
 怖そうな人からいい人、そしてとてつもない感謝を向ける相手と変遷してるだけで、部長に好意を持ってるなんて、一言も書いてないじゃない。
 私はホッとしつつ、まだドキドキしながら顔を上げた。
 満員電車は、秋が深まるこの季節でも冷房が入っていて、焦りから火照った頬をほどよく冷やしてくれる。
 一度スマホの操作をやめ、無意味にパタパタさせて自分に風を送りながら、私は窓の外を眺めた。
 ーー人との関係を築くどころか、円滑なコミュニケーションすら難しい私が、恋なんてありえない。
 しかもその相手が湯浅部長だなんて。
 あまりにおこがましいし、部長にも申し訳ない。
 私はそう結論づけて、自分を戒めた。
 だけど同時に、部長から提案された秘密の競争が脳裏に浮かぶ。
 もし……。
 私が部長に勝てたら、他人とのちょっと違った関係に踏み出す自信に繋がるのだろうか。
 そんな思いがよぎり、私は少し逡巡してからスマホのロックを解除した。
 そして。
『みなさんが疑うようなことは、決して決してありません! ……でも、この上司の方は私をいい方向へ導いてくれる神様みたいだと、尊敬はしています。私にいろいろな機会を与えてくれた上司に報いるためにも、私は変わりたい。真剣にそう思っています』
 正直な思いの丈を、コメント欄に綴った。
 そう、これが嘘偽りない今の気持ち。
 部長への気持ちは、これ以上でも以下でもない。
 ーー多分、絶対。
< 57 / 104 >

この作品をシェア

pagetop