社内では言えないけど ―私と部長の秘匿性高めな恋愛模様―
『ちひろちゃんとおしゃべりしても、つまらないもん』
 私の脳裏をよぎったのは、小学校の同級生だった女の子の言葉。
 仲良しだと思っていた子に急に無視されるようになって、事態を知った担任の先生が仲裁に入ってくれた際、その子はそう言ったそうだ。
 無理もないと、私も思う。
 私の両親は共に教職者で、三つ年上の姉と私は、とても厳しく育てられた。
 それでも姉は、出来がいい上に要領がいい人で、伸び伸びと過ごしながらも、上手く両親の期待に応えていた。
 ところが私は姉と違って不器用で、なにかと比較されては怒られてばかりだった。
 なににおいても姉に劣る私が両親に褒めてもらう唯一の方法。
 それは、我儘を言わない、反抗しない、両親の言いつけには『はい』と答える、いわゆる『いい子』でいることーー。
 幼いうちから両親の顔色を窺って、自己主張の仕方を覚えず育った私が、小学校に上がって他の子供と上手く関われるわけがない。
『ちひろちゃんって、なんにも言わないね』
 仲良しだと思っていた女の子たちはそう言って、私から離れていった。
 みんなに仲良くしてもらえない自分が嫌で、私はますます内に籠るようになった。
 どうしてもなにか発言しなきゃいけない時は、嫌われないよう、人に意見を合わせる。
 そうして意見が割れなければ、少なくとも周りは平和で、私は平穏に身を置いていられた。
 だけど、なにかいつも窮屈だった。
 言いたいことは言えない、なんでも話せる友達ができないまま大人になって、なんとも言えない孤独感がまとわりつく。
 上手く人付き合いできない自分を他人と比べては劣等感に苛まれーーそんな私が心の悲鳴を吐き出せる場所、それがブログだった。
 辛くて苦しい胸の内を文章に表すことで、自分の外側に放出する。
 それだけでも、いくらか心を軽くすることはできた。
 もちろん、そんなブログを公開しようとは考えてなくて、最後は全部消していた。
 ところがある日、知らない人から突然コメントが寄せられた。
 それで、操作を誤って公開していたことに気づき、全身から血の気が引く思いだった。
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