社内では言えないけど ―私と部長の秘匿性高めな恋愛模様―
 私は改めてスマホに目を落とし、『湯けむり旅情』さんのコメントの続きを読んだ。
『河川敷で土手をのんびり歩き、芝生に座って緩やかな川の流れをぼんやり眺める。私がよく行く河川敷にはかなり広い空き地があるので、少年野球チームの練習や、社会人ラグビーサークルの試合にも使われています。都心からそう離れていない場所でちょっと非日常体験を味わえる……普段の自分から離れ、客観的に見つめ直す場所として最適です』
 自分を見つめ直すーー。
 『湯けむり旅情』さんの文章が上手で、その情景を脳裏で鮮明に思い描ける。
 小春日和の休日、カジュアルな服装のキャリアウーマンが近所の河川敷を通りかかり、土手に下りてきた。
 なにか目的があって来た様子ではなく、散歩の途中にふらりと立ち寄った感じだ。
 ちょっと休憩のつもりか、芝生の上に腰を下ろす。
 長い足を投げ出し、ふと思い立ったように、バッグから文庫本を取り出す。
 芝生の匂いに包まれ、女性はゆっくりとページを捲る。
 柔らかくそよぐ風が髪を揺らし、女性は川のせせらぎに耳を澄ます。
 そして、川辺の空き地から元気な声が聞こえて、本を読むのをやめた。
 立ち上がり、野球の練習をしている少年たちを眺める。
 その目元は優しく緩んでいて、微笑ましそうでーー。
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