社内では言えないけど ―私と部長の秘匿性高めな恋愛模様―
 私は食事の手を止め、ぼんやりと両手で頬杖をついた。
 河川敷……うちの近くにあったっけ。
 すぐには思いつかないけど、『湯けむり旅情』さんのオススメ通り、心が洗われそうだ。
 探して行ってみるのもいいかもしれない。
 スマホでWEBを開き、検索してみようとした時。
「宇佐美さん、お疲れ」
 頭上から声が降ってきて、ハッとして顔を上げた。
「あ……光山さん。お疲れ様です」
 声の主を顔を確認して、私は反射的に腰を浮かした。
「向かい側、いいかな」
 彼は両手で定食のトレーを持っていて、私の対面の椅子を顎で示す。
「は、はい。どうぞ……」
 私はそう返事をして、彼と同時に椅子に腰を戻した。
 光山さんは早速箸を手に取り、私の手元にちらりと視線を向ける。
「宇佐美さんはお弁当か」
「あ、はい」
「へえー。自分で作ってるの?」
 軽く覗き込みながら訊ねられ、私は無意識に肩を強張らせた。
「たまにですけど……」
 ぎこちない笑顔で答え、箸を持つ。
 なんとなく居心地悪くて、彼から隠すように左手でお弁当箱を支えた。
 どうしてだろう。
 この間、湯浅部長にお弁当を見られた時は、そんな風には思わなかったのに。
 今日は冷蔵庫にあったもので適当に作ったお弁当で、あの時はそこそこ自信作だったからだろうか?
 あまり見られたくないと思う自分に困惑しつつ、私は俯き、せかせかと箸を口に運んだ。
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