社内では言えないけど ―私と部長の秘匿性高めな恋愛模様―
「あれ? 宇佐美さん、もう休憩終わり?」
 急ぎ出す私に気づいたのか、光山さんが首を傾げる。
「えっと……仕事に戻る前に行きたいところがあるので……」
 そんな言い訳をして、私はお弁当箱に蓋をした。
 呆気に取られる光山さんに構わず、急いで片付けをする。
「お先にすみません」
 勢いよく席を立ち、そそくさと立ち去ろうとすると。
「あ、待って」
「え?」
 通り過ぎようとした左手を取られ、ギクリとして振り返った。
 光山さんも立ち上がっていて、私は視線を上に向ける。
「宇佐美さん、今日暇?」
「っ、え?」
「よかったら、飲みに行かない?」
「え……っと」
 私は困惑して、瞬きを繰り返した。
「で、でも、あの……」
 光山さんの顔と、私の左手を掴む手に目を落とす。
「来週の金曜日に、プロジェクトチームの飲み会がありますし……」
「ああ、それはそれ。今日はみんなでとかじゃなくて、個人的に」
「個人的に?」
「二人でって誘いなんだけど」
「…………」
 後にも先にも、そんな誘いを受けたことがなくて、私は当惑して黙り込んだ。
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