社内では言えないけど ―私と部長の秘匿性高めな恋愛模様―
「え?」
 光山さんもスマホから顔を上げる。
「湯浅……部長?」
 私と彼が同時に視線を向けた先には、やや固い表情の湯浅部長が立っていた。
「彼女が困っているの、わからないのか? 強引でお前らしくない」
 部長はそう続けて、大きな歩幅でツカツカと歩いてくる。
 そして、光山さんの行動を阻むように、その手の平のスマホに手をのせて隠した。
「え……えと……?」
 光山さんは、部長の顔と自分のスマホを交互に見遣り、当惑しているようだ。
「誘い方が強引だ、と言っている。チームリーダーのお前から、仕事のメリットにもなるなどと言われたら、宇佐美さんの逃げ道はないだろう? たとえ他に予定があって困っていたとしても」
 当惑していた光山さんも、部長になにを止められたのか合点したようだ。
 改めて私に視線を落とし……。
「あー……ごめん、宇佐美さん。いきなり今日じゃ急……だったかな」
 私はよほど困りきった顔をしていたのか、部長の指摘を素直に受け入れ、きまり悪そうに眉を下げた。
「あ……は、い。すみません、私……」
 予定があったわけじゃないけど、そういうことにしておいた方が断るのに角が立たない気がする。
< 69 / 104 >

この作品をシェア

pagetop