社内では言えないけど ―私と部長の秘匿性高めな恋愛模様―
「ほ、報告が後になり、申し訳ありません」
髪が乱れる勢いで一礼する。
どうやら、部長に報告せずに契約書を取り戻したかったようだ。
もし見つかっても、紛失騒ぎを起こしたとなれば、厳しい叱責は免れないからだろう。
部長は無言で彼女の頭を見下ろしている。
言葉をかけてもらえなかったからか、村重さんは下げた時と同じ勢いで姿勢を正した。
「遅くなりましたが、報告いたします。見つからないのは、私が宇佐美さんに取りに行くよう依頼した契約書なんです。法務部で宇佐美さんが受け取ったところまでは確認できているのですが……」
「話は聞こえたので、説明は不要。その時なにがあったか覚えている者はいないか?」
部長は村重さんの説明を遮って、周りを囲む全員をぐるりと見回す。
「あの……今思い出したんですけど……」
問いかけに促されたのか、大村さんが遠慮がちに一歩前に出た。
「その日は、宇佐美さんが新プロジェクトチームのメンバーに選出された後で、村重は仕事頼める事務職がいなくなるって、ちょっとイライラしていて……」
そう言いながら、上着の胸ポケットを探ってスケジュール帳を取り出す。
「ちょっと大村君っ。そんな余計なことは言わなくていいでしょ!」
「村重さん。君は黙ってて」
ムキになって口を挟む村重さんを一瞥して、部長は大村さんに向き直る。
「それで? 続けて」
「はい。それで、ええと……あ、ありました」
スケジュール帳を捲っていた大村さんが、目当てのページが見つかったようで顔を上げた。
「村重が宇佐美さんに契約書を取りに行くよう依頼した後、課長の都合で午後予定されていた会議が繰り上げになり、俺も村重も慌てて準備していて……」
「あ……」
私もそれを聞いて、その時の記憶がはっきりと蘇った。
「私が契約書を受け取って戻ってきた時、大村さんと村重さんはなにか急いでました。村重さんは私に、契約書はデスクに置いといてって言いましたが、すごく散らかっていて……」
頭に浮かんだ情景のままに呟いて、ハッと口を閉じる。
『すごく散らかっていて』なんて言い方をして、気に障ったかもしれない。
首を縮めて窺うと、村重さんの顔はムッと歪んではいたけど、口を噤んで黙っている。
それを見て、私は先を続けた。
「だ、だからその……置いとくのは危ないなって思って。迷ってたら、村重さんが私の手から持っていかれました。あ、あの、本当です。確かです。間違いありません……!」
最後は思い切って断言すると、大村さんが「あ!」と手を打った。
「そうだ。村重は宇佐美さんから契約書奪い取って……」
彼の同意を聞いて、みんなの目が村重さんに集まる。
一斉に注目を浴びて、彼女も怯んだ顔をした。
髪が乱れる勢いで一礼する。
どうやら、部長に報告せずに契約書を取り戻したかったようだ。
もし見つかっても、紛失騒ぎを起こしたとなれば、厳しい叱責は免れないからだろう。
部長は無言で彼女の頭を見下ろしている。
言葉をかけてもらえなかったからか、村重さんは下げた時と同じ勢いで姿勢を正した。
「遅くなりましたが、報告いたします。見つからないのは、私が宇佐美さんに取りに行くよう依頼した契約書なんです。法務部で宇佐美さんが受け取ったところまでは確認できているのですが……」
「話は聞こえたので、説明は不要。その時なにがあったか覚えている者はいないか?」
部長は村重さんの説明を遮って、周りを囲む全員をぐるりと見回す。
「あの……今思い出したんですけど……」
問いかけに促されたのか、大村さんが遠慮がちに一歩前に出た。
「その日は、宇佐美さんが新プロジェクトチームのメンバーに選出された後で、村重は仕事頼める事務職がいなくなるって、ちょっとイライラしていて……」
そう言いながら、上着の胸ポケットを探ってスケジュール帳を取り出す。
「ちょっと大村君っ。そんな余計なことは言わなくていいでしょ!」
「村重さん。君は黙ってて」
ムキになって口を挟む村重さんを一瞥して、部長は大村さんに向き直る。
「それで? 続けて」
「はい。それで、ええと……あ、ありました」
スケジュール帳を捲っていた大村さんが、目当てのページが見つかったようで顔を上げた。
「村重が宇佐美さんに契約書を取りに行くよう依頼した後、課長の都合で午後予定されていた会議が繰り上げになり、俺も村重も慌てて準備していて……」
「あ……」
私もそれを聞いて、その時の記憶がはっきりと蘇った。
「私が契約書を受け取って戻ってきた時、大村さんと村重さんはなにか急いでました。村重さんは私に、契約書はデスクに置いといてって言いましたが、すごく散らかっていて……」
頭に浮かんだ情景のままに呟いて、ハッと口を閉じる。
『すごく散らかっていて』なんて言い方をして、気に障ったかもしれない。
首を縮めて窺うと、村重さんの顔はムッと歪んではいたけど、口を噤んで黙っている。
それを見て、私は先を続けた。
「だ、だからその……置いとくのは危ないなって思って。迷ってたら、村重さんが私の手から持っていかれました。あ、あの、本当です。確かです。間違いありません……!」
最後は思い切って断言すると、大村さんが「あ!」と手を打った。
「そうだ。村重は宇佐美さんから契約書奪い取って……」
彼の同意を聞いて、みんなの目が村重さんに集まる。
一斉に注目を浴びて、彼女も怯んだ顔をした。