社内では言えないけど ―私と部長の秘匿性高めな恋愛模様―
 子供の頃から大好きで、楽しみにしていたもの、その一つは、母が誕生日に作ってくれる大きなケーキ。
 だから、評判のいいスイーツ店を探して、実際に行って食べた感想を投稿した。
 子供の頃、両親が仕事から帰ってくるまでの留守番中、姉と二人で遊んだぬいぐるみや人形。
 細かい手作業は嫌いじゃないし、一人の時間を有意義に使おうと考えて、手作りキットを買ってきて製作に励んだ。
 出来上がったものの画像や感想を公開すると、それにもまた、みんながコメントをくれる。
 それが嬉しくて楽しかった。
 現実世界の私の心がちょっとずつ潤って、ネガティヴな投稿をする頻度はだいぶ減った。
 私のブログも、日常を綴ったエッセイ的なものへと移り変わっていった。
 たとえば、今週の週末なにをして過ごしたとか、オフィスで起きたちょっとした事件、食べてみたいもの、興味があるお店……などなど。
 ブログは、SNSほど身近でリアルではなく、適度な距離感を保てるコミュニケーションツールだと思う。
 広いネット世界で、私発信の文章で繋がった小さな小さなコミュニティは、もう五年も続いているーー。
『まもなく東京〜、東京駅に到着します』
 車内アナウンスを耳にして、スマホをバッグにしまう。
 今日は、ブログに書けるような出来事が起こるだろうか。
 いや、私の仕事なんて毎日毎日変わり映えしないから、面白みはない。
 ああ、仕事の合間に新部長を観察してみようかな。
 『湯けむり旅情』さんに、結果報告できるかもしれないし。
 思い巡らせながら電車を降りると、会社に向かう足取りも少しだけ軽い。
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