社内では言えないけど ―私と部長の秘匿性高めな恋愛模様―
「偶然……じゃないです」
「え?」
「どこに行けば部長に会えるか、探しました。東京に近い河川敷」
「私に?」
訝しげに眉を寄せる部長から目を逸らし、自分の足元を見下ろす。
「少年野球の練習や社会人ラグビーチームの試合が行われる空き地がある河川敷って、意外と少なかったので……」
私の返事に、部長は虚を衝かれたようだ。
呆気に取られた様子で、黙っていたけれど。
「私が落ち込んでいる、そう読んでいたのか?」
低い声で問いかけられ、私は部長に視線を戻す。
答えようと口を開き、一瞬躊躇してから意を決する。
「あの……隣、座っていいですか?」
私が訊ねると、部長は一度、自分の横を見遣った。
「汚れるかもしれないよ」
「大丈夫です。……失礼します」
拒否されなかったことにホッとして、私は部長の隣に腰を下ろした。
立ったままより間隔が縮まり、ほんの少し肩に力が入る。
両膝を抱え込み、自分の靴の爪先をジッと見つめた。
部長は私の真意を測っているのか、横から探るような視線を感じる。
きっと、私がどうして部長を探してここに来たのか、不審に思っているのだろう。
早く言わなきゃ、という焦りが湧いてくる。
ただでさえ、部長がそばにいる、私を見ていることにドキドキするのに、喉がカラカラで上手く声が出ない。
なんのためにここまで来たの。
しっかりしろ、私ーー。
「あ、あの……」
「本当に、すまなかった」
勇気を出して絞り出した声は、部長の淡々とした謝罪と被り、掻き消されてしまった。
「……え?」
一拍分の間を置いて、聞き返しながら部長に顔を向ける。
「ブログの書き手と読者、あくまでも匿名の繋がりであるのをいいことに、私は意図的に自分を隠し、結果として君を騙してしまった。本当に、申し訳ないことをしたと思っている」
部長は真摯な口調でそう言って、私に向かって頭を下げた。
最後にくれたコメントと同じ。
とても誠実で真摯な思いが伝わってきて、今も私は言葉に詰まってしまう。
「コメント、読んでくれたか?」
なにも言えず、精一杯首を縦に振って応える。
「約束通り、二度と君のブログを読んだりしない。だから安心して続けてくれ。……いや、安心しっぱなしもいけないか」
部長は自分の言葉を打ち消し、思案げに顎に手を遣った。
なにか納得いったのか、うんうんと頷いてから、軽い掛け声と同時にその場に立ち上がる。
デニムの埃を手で叩くと、私を肩越しに見下ろし、
「WEB上で、匿名のやり取りができる。ブログは便利なツールだが、相手の素性はわからない。悪人でも善人の仮面を被って距離を詰めることができる。一寸先は闇……警戒心は忘れず、楽しんでほしい」
ゆっくりした口調で、諭すような言葉をかけてくれた。
「え?」
「どこに行けば部長に会えるか、探しました。東京に近い河川敷」
「私に?」
訝しげに眉を寄せる部長から目を逸らし、自分の足元を見下ろす。
「少年野球の練習や社会人ラグビーチームの試合が行われる空き地がある河川敷って、意外と少なかったので……」
私の返事に、部長は虚を衝かれたようだ。
呆気に取られた様子で、黙っていたけれど。
「私が落ち込んでいる、そう読んでいたのか?」
低い声で問いかけられ、私は部長に視線を戻す。
答えようと口を開き、一瞬躊躇してから意を決する。
「あの……隣、座っていいですか?」
私が訊ねると、部長は一度、自分の横を見遣った。
「汚れるかもしれないよ」
「大丈夫です。……失礼します」
拒否されなかったことにホッとして、私は部長の隣に腰を下ろした。
立ったままより間隔が縮まり、ほんの少し肩に力が入る。
両膝を抱え込み、自分の靴の爪先をジッと見つめた。
部長は私の真意を測っているのか、横から探るような視線を感じる。
きっと、私がどうして部長を探してここに来たのか、不審に思っているのだろう。
早く言わなきゃ、という焦りが湧いてくる。
ただでさえ、部長がそばにいる、私を見ていることにドキドキするのに、喉がカラカラで上手く声が出ない。
なんのためにここまで来たの。
しっかりしろ、私ーー。
「あ、あの……」
「本当に、すまなかった」
勇気を出して絞り出した声は、部長の淡々とした謝罪と被り、掻き消されてしまった。
「……え?」
一拍分の間を置いて、聞き返しながら部長に顔を向ける。
「ブログの書き手と読者、あくまでも匿名の繋がりであるのをいいことに、私は意図的に自分を隠し、結果として君を騙してしまった。本当に、申し訳ないことをしたと思っている」
部長は真摯な口調でそう言って、私に向かって頭を下げた。
最後にくれたコメントと同じ。
とても誠実で真摯な思いが伝わってきて、今も私は言葉に詰まってしまう。
「コメント、読んでくれたか?」
なにも言えず、精一杯首を縦に振って応える。
「約束通り、二度と君のブログを読んだりしない。だから安心して続けてくれ。……いや、安心しっぱなしもいけないか」
部長は自分の言葉を打ち消し、思案げに顎に手を遣った。
なにか納得いったのか、うんうんと頷いてから、軽い掛け声と同時にその場に立ち上がる。
デニムの埃を手で叩くと、私を肩越しに見下ろし、
「WEB上で、匿名のやり取りができる。ブログは便利なツールだが、相手の素性はわからない。悪人でも善人の仮面を被って距離を詰めることができる。一寸先は闇……警戒心は忘れず、楽しんでほしい」
ゆっくりした口調で、諭すような言葉をかけてくれた。