素直になれない高飛車王女様は今更「愛されたい」だなんて言えるわけがない

1話

「は、離してください」
 令嬢はか細い声で抵抗した。けれど所詮女の細腕だ。何の意味もありはしない。

「まあ、そう言うなよ」
 腕をぐっと掴んで男は顔を近づけてくる。夜会で人目のない場で男と二人きり。叫んで助けを求めても誰も来てはくれないだろう。それにここは、そういうことのための部屋だ。

 ああ、こんなところで私は、好きな人に捧げようと思っていた純潔を失うのだ。そう思って絶望した時だった。

「聞こえなかったの? 離せと言っているじゃない」

 決して大きな声ではない。けれど、凛とした芯のある響きは、まるで闇夜を切り裂くようにすっと耳に入ってきた。

 豊満な肢体を包むのは、目にも鮮やかな真紅のドレス。
 頭の上で結ばれたリボンも同じ色。
 ともすれば幼く見えてしまうその装いが、彼女にはとても似合っていた。

 世界の全てが彼女の為にある、そう言わんがごとく。

「それとも、言葉も分からないような下等な猿がこの城に紛れ込んでいるのかしら。腹立たしいことこの上ないわね」

 尊大に彼女はくびれた腰に手を当てた。くいっ、と顎を上げれば眩い金の髪が揺れる。馬鹿にしていると誰の目にも明らかだった。

「お前一体、なんだ」
 せっかくのお楽しみ(・・・・)を邪魔された男は、怒りを顔中に露わにして睨みつける。令嬢は放たれる怒気にひっっと小さく声を上げたが、リボンの彼女は一切怯まなかった。

「あら、それはこちらの台詞だわ」
 星を浮かべた輝くばかりの青い瞳は、真っ直ぐに男を射抜く。

「あなたこそ、わたくしを誰だとお思いで?」

 艶やかな唇は美しく弧を描く。そして優雅に首を傾げて言った。

 そこで、男はやっと気がついた。
 金髪に碧眼。そしてこの美貌。誰もを虜にしてやまない、王宮の赤い薔薇。

「わたくしは、アルフォンソ王が第一王女、ロジータ。さて、その子の手を離して頂けるかしら?」
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