素直になれない高飛車王女様は今更「愛されたい」だなんて言えるわけがない
「姫様、ロジータ姫様っ!」
「あら、遅かったわね。ジェラルド」
ロジータは血相を変えて現れた騎士に悠然と言った。もっとも、思っていたより彼が来るのは早かった。まあそれを見越して振り切って来たのだけれど。
「こんなところで何をなさってるんですか。またシルヴィオ殿下に叱られますよ」
「お兄様なんて怒らせておけばいいのよ。とりあえずこの狼藉者をどうにかして頂戴」
「あーまた夜会にかこつけてご令嬢に手を出そうとしている不埒な輩を捕まえて……そういうのは俺たち騎士に任せておいてくれって、いつも言っているじゃないですか」
「なによ、あなた達が優雅にしているから、わたくしが出て行く羽目になるんじゃない」
実際ゆっくりしている時間なんてなかったのだ。たまたまちょっと外に出てみたら、悲鳴が聞こえてきて、気がついたら体が動いていた。
「あなたに何かあったら、俺はどうしたらいいんですか」
こんなに踵の高い靴を履いてもなお見上げるばかりの長身は、額に手を当ててしおらしくそんなことを言う。
「どうしたらって……わたくしに何もないようにするのが、あなたの仕事でしょう?」
「それはそうなんですけど……」
ジェラルドは元々王太子である兄の近衛騎士だった。
七つ年下の妹の扱いに困り果てたシルヴィオは、己の周りで一番穏やかで面倒見がいい者をお目付け役として宛がった。わかりやすく言えば、ジェラルドは貧乏くじを引かされたとも言える。
「今夜は色々あるっていうのに」
実直さがそのまま表れたような黒い髪をかき上げて、ジェラルドはやれやれと溜息を吐く。
「あら、何があるの?」
確かに王家主催の夜会ではあるが、そんな大きな行事は予定されていただろうか。少なくとも、ロジータの耳には入っていない。
「ああ、いえ……」
彼にしては珍しく、随分と歯切れが悪い。
「戻りましょう……殿下もお待ちですよ」
「分かったわ」
けれど大して抵抗する理由もない。ロジータはジェラルドに促されるがままに大広間に戻った。
迎えた兄はいつもと変わらぬ愛想のない仏頂面だった。父も母も同じなのだから顔は似ている方だと思うが、シルヴィオは常に冷静沈着と言っていい。思っていることが全て顔に出てしまうロジータとは正反対である。
「今日は皆に伝えておかねばならないことがある」
静かだがよく通る声だ。時折彫像のようだとも揶揄される自分の容姿の使い方を、兄はよく心得ている。
「我が妹の婚姻が決まった」
第一王女ロジータの結婚。他国の王子か、はたまた名門貴族の嫡男か。憶測が波のように広がって、大広間は一瞬にしてざわめき出す。
「近衛騎士ジェラルドを、夫として迎えようと思う」
人々の視線を一心に集め、渦中のその人はいくらか申し訳なさそうに頭を下げる。こんな時まで人の好さが仕草ににじみ出ている。
ロジータと同じ色の青い瞳は、有無を言わさぬ氷のような色でちらりとこちらを見ただけだった。
自分の結婚について、まるで他人のことのように、その場ではじめてロジータは耳にした。
「あら、遅かったわね。ジェラルド」
ロジータは血相を変えて現れた騎士に悠然と言った。もっとも、思っていたより彼が来るのは早かった。まあそれを見越して振り切って来たのだけれど。
「こんなところで何をなさってるんですか。またシルヴィオ殿下に叱られますよ」
「お兄様なんて怒らせておけばいいのよ。とりあえずこの狼藉者をどうにかして頂戴」
「あーまた夜会にかこつけてご令嬢に手を出そうとしている不埒な輩を捕まえて……そういうのは俺たち騎士に任せておいてくれって、いつも言っているじゃないですか」
「なによ、あなた達が優雅にしているから、わたくしが出て行く羽目になるんじゃない」
実際ゆっくりしている時間なんてなかったのだ。たまたまちょっと外に出てみたら、悲鳴が聞こえてきて、気がついたら体が動いていた。
「あなたに何かあったら、俺はどうしたらいいんですか」
こんなに踵の高い靴を履いてもなお見上げるばかりの長身は、額に手を当ててしおらしくそんなことを言う。
「どうしたらって……わたくしに何もないようにするのが、あなたの仕事でしょう?」
「それはそうなんですけど……」
ジェラルドは元々王太子である兄の近衛騎士だった。
七つ年下の妹の扱いに困り果てたシルヴィオは、己の周りで一番穏やかで面倒見がいい者をお目付け役として宛がった。わかりやすく言えば、ジェラルドは貧乏くじを引かされたとも言える。
「今夜は色々あるっていうのに」
実直さがそのまま表れたような黒い髪をかき上げて、ジェラルドはやれやれと溜息を吐く。
「あら、何があるの?」
確かに王家主催の夜会ではあるが、そんな大きな行事は予定されていただろうか。少なくとも、ロジータの耳には入っていない。
「ああ、いえ……」
彼にしては珍しく、随分と歯切れが悪い。
「戻りましょう……殿下もお待ちですよ」
「分かったわ」
けれど大して抵抗する理由もない。ロジータはジェラルドに促されるがままに大広間に戻った。
迎えた兄はいつもと変わらぬ愛想のない仏頂面だった。父も母も同じなのだから顔は似ている方だと思うが、シルヴィオは常に冷静沈着と言っていい。思っていることが全て顔に出てしまうロジータとは正反対である。
「今日は皆に伝えておかねばならないことがある」
静かだがよく通る声だ。時折彫像のようだとも揶揄される自分の容姿の使い方を、兄はよく心得ている。
「我が妹の婚姻が決まった」
第一王女ロジータの結婚。他国の王子か、はたまた名門貴族の嫡男か。憶測が波のように広がって、大広間は一瞬にしてざわめき出す。
「近衛騎士ジェラルドを、夫として迎えようと思う」
人々の視線を一心に集め、渦中のその人はいくらか申し訳なさそうに頭を下げる。こんな時まで人の好さが仕草ににじみ出ている。
ロジータと同じ色の青い瞳は、有無を言わさぬ氷のような色でちらりとこちらを見ただけだった。
自分の結婚について、まるで他人のことのように、その場ではじめてロジータは耳にした。