素直になれない高飛車王女様は今更「愛されたい」だなんて言えるわけがない
「考え直してください!」
「なんだ、ジェラルドでは不満か? あんなに嬉しそうに踊っていたじゃないか」
朝一番に執務室を訪ねて声を荒げても、当然のように兄はそう返すだけだった。狼狽える様子など、毛筋ほども見せない。傍らには、控えるようにジェラルド本人もいる。
あの後、さすがに人目のあるところで兄を問い質す気にはなれなかった。お転婆だの跳ねっ返りだのと言われるロジータだが、それぐらいの分別はある。
「そもそもわたくしの結婚を、何の権限でお兄さまが勝手にお決めになるのです?!」
「権限ならある。私は次の王だからな。この国にとって一番利益があるようにお前の婚姻を決める義務がある」
「でしたら、どこぞの大国にでも嫁に出せばよろしいのですわ」
実際いつかそうなるのだろうと思っていた。王女など政略結婚の手駒でしかない。
「ほう、我が妹も一応は王女としての自覚があるようだな」
でもな、とシルヴィオは言葉を区切る。
「お前、『淑女のさしすせそ』は知っているか?」
聞き返されたと思ったらこれだ。まったく意味が分からない。
「さしすせそ……」
兄が問うてくるからには一般的な淑女の心得なのだろうか。王女として一通りの教育は受けたロジータだが、皆目見当もつかない。
けれど顎に手を当てて考えを巡らせたところで、ぴんと閃いた。
「お兄様」
「なんだ、ロジータ」
「さしすせそは分かりませんけど、『はひふへほ』なら分かります」
「ほほう、言ってみろ」
「恥をしれ、跪きなさい、ふざけるのは顔だけにしろ、平伏せよ、凡人風情が、ですわね」
我ながらなかなかの出来だと思う。そう思って胸を張ったら、この世の終わりのような顔で兄がこちらを見ていた。
「……もう、いい」
眉間に皺を寄せて何やら難しい顔をしている。そんなに怖い顔をしていると、その名の通りきれいな銀髪もそう遠くないうちに禿げると、内心ロジータはいつも思っている。
「お前を外に出すのは国際問題になりかねない。そう思ってやめたんだ」
「あら、この一分の隙もない完璧な淑女のわたくしのどこが国際問題に?」
首を傾げて微笑んでみせたけれど、
「そういうところ、全てだ」
兄はまた頭を抱えていた。このまま本当に禿げてしまうかもしれない。
「なに、ジェラルドならお前のこともよく知っているし適任だろう。なあ?」
そう言って横に立つ男を見遣る。元々の主であり王太子である兄の言葉に、一介の騎士であるジェラルドが異を唱えるわけがない。
よくない。何もよくない。
「とにかくお前がジェラルドを夫とすることは父上も承知している。これはもう、決まったことなんだ」
昔からそうだった。兄も父も、ロジータには何も教えてはくれない。全ては決まったことで、年の離れた妹の癇癪なんてどうとでも丸め込めると馬鹿にしている。それがたまらなく嫌だった。
「もうこいつにしておけ。ジェラルドでだめならお前に嫁の貰い手はないぞ? 一生独身で過ごすのか?」
仮にも一国の王女がそう簡単に独身を貫けるわけがない。それぐらいは分かっている。けれど、
「独身で結構!!」
上等のマホガニー材の執務机を叩いたら、バンっと大きな音がした。兄の顔色は変わらなかった。ただただ自分の掌が痛い。それだけだった。
「なんだ、ジェラルドでは不満か? あんなに嬉しそうに踊っていたじゃないか」
朝一番に執務室を訪ねて声を荒げても、当然のように兄はそう返すだけだった。狼狽える様子など、毛筋ほども見せない。傍らには、控えるようにジェラルド本人もいる。
あの後、さすがに人目のあるところで兄を問い質す気にはなれなかった。お転婆だの跳ねっ返りだのと言われるロジータだが、それぐらいの分別はある。
「そもそもわたくしの結婚を、何の権限でお兄さまが勝手にお決めになるのです?!」
「権限ならある。私は次の王だからな。この国にとって一番利益があるようにお前の婚姻を決める義務がある」
「でしたら、どこぞの大国にでも嫁に出せばよろしいのですわ」
実際いつかそうなるのだろうと思っていた。王女など政略結婚の手駒でしかない。
「ほう、我が妹も一応は王女としての自覚があるようだな」
でもな、とシルヴィオは言葉を区切る。
「お前、『淑女のさしすせそ』は知っているか?」
聞き返されたと思ったらこれだ。まったく意味が分からない。
「さしすせそ……」
兄が問うてくるからには一般的な淑女の心得なのだろうか。王女として一通りの教育は受けたロジータだが、皆目見当もつかない。
けれど顎に手を当てて考えを巡らせたところで、ぴんと閃いた。
「お兄様」
「なんだ、ロジータ」
「さしすせそは分かりませんけど、『はひふへほ』なら分かります」
「ほほう、言ってみろ」
「恥をしれ、跪きなさい、ふざけるのは顔だけにしろ、平伏せよ、凡人風情が、ですわね」
我ながらなかなかの出来だと思う。そう思って胸を張ったら、この世の終わりのような顔で兄がこちらを見ていた。
「……もう、いい」
眉間に皺を寄せて何やら難しい顔をしている。そんなに怖い顔をしていると、その名の通りきれいな銀髪もそう遠くないうちに禿げると、内心ロジータはいつも思っている。
「お前を外に出すのは国際問題になりかねない。そう思ってやめたんだ」
「あら、この一分の隙もない完璧な淑女のわたくしのどこが国際問題に?」
首を傾げて微笑んでみせたけれど、
「そういうところ、全てだ」
兄はまた頭を抱えていた。このまま本当に禿げてしまうかもしれない。
「なに、ジェラルドならお前のこともよく知っているし適任だろう。なあ?」
そう言って横に立つ男を見遣る。元々の主であり王太子である兄の言葉に、一介の騎士であるジェラルドが異を唱えるわけがない。
よくない。何もよくない。
「とにかくお前がジェラルドを夫とすることは父上も承知している。これはもう、決まったことなんだ」
昔からそうだった。兄も父も、ロジータには何も教えてはくれない。全ては決まったことで、年の離れた妹の癇癪なんてどうとでも丸め込めると馬鹿にしている。それがたまらなく嫌だった。
「もうこいつにしておけ。ジェラルドでだめならお前に嫁の貰い手はないぞ? 一生独身で過ごすのか?」
仮にも一国の王女がそう簡単に独身を貫けるわけがない。それぐらいは分かっている。けれど、
「独身で結構!!」
上等のマホガニー材の執務机を叩いたら、バンっと大きな音がした。兄の顔色は変わらなかった。ただただ自分の掌が痛い。それだけだった。