素直になれない高飛車王女様は今更「愛されたい」だなんて言えるわけがない
「姫様、姫様!」

 カツンカツンという自分の足音に、別の靴音が混じる。どんなに大股で歩いても長身はすぐに追いついてくる。

「俺と結婚するのが、そんなに嫌ですか」
「離してっ」

 手首を掴まれたかと思うと、彼は目の前に立ちはだかってきた。痛いと思うほどの力ではないのに、どうしてだか振りほどくことができなかった。

「離したらちゃんと俺の質問に応えてくれますか?」
 大きな手に肩を掴まれて、意志の強さを感じさせる黒い目が真っ直ぐにロジータを射抜いてくる。

「もう一度言います。俺と結婚するのは、嫌ですか?」
 嫌だとは、言えなかった。だから代わりに、

「……いつから?」

 ロジータが知ったのはつい昨日のことだが、ジェラルドまでそうであるはずかない。当然、事前に兄から打診があっただろう。

「四ヶ月ほど前には」

 自分が思っていたよりも前だった。ゆっくりと時間をかけて兄は他の貴族を牽制して囲い込んだ。そしてロジータに有無を言わさぬように定められたのが、昨夜の夜会だったということか。

「もっと早く教えてくれたらよかったのに」

 知っていたら、暴れるなり喚き散らすなりなんなりして絶対に断るつもりだった。ここまで来てしまったらもう、ロジータではどうにもならない。

 近衛騎士は、まだいい。いつか辞めることもできる。
 けれど、婚姻はどうだろう。
 伴侶の名の下に、ジェラルドを自分に縛り付けるのだ。それが正しいことだとは、ロジータには思えなかった。

「断る選択肢のない提案は、強要となんら変わらないわ」

 いくら彼が面倒見がよくて何の文句も言わないとはいえ、これではあんまりだ。国の利益の為なら、この人個人の幸せはどうだっていいのか。

 俯いたら、ドレスの裾を掴む自分の手が震えていた。王宮の赤い薔薇だともてはやされてもなんてことはない。所詮ロジータはただの無力な小娘だ。お飾りの人形でしかない。

「あなたは何もわかっていないのよ」

 美しく咲き誇る薔薇。その花、その棘。
 自分が誰かなんて、自分が一番よく知っている。

 人を傷つけないと生きていけない、どうしたって向かっていってしまう気性の激しさを、これでもちゃんと理解しているつもりだ。
< 5 / 7 >

この作品をシェア

pagetop