悪女な私とは婚約破棄してください。なのに、冷徹社長の猛愛からは逃げられない
「いえ」

 短く答えて、志桜はソファから腰を浮かせる。そして、目の前に立つ男を見あげた。
 場の空気を一瞬で制圧する強者のオーラと鮮烈な華。初めて会った五年前と印象は変わらない。あいかわらず最高級の美術品のような美貌だ。モデル並みのスタイルに寸分の狂いもなく完璧に整った顔面。ゾクリとするような男の色香を全身からにじませている。
 あまりにも美しすぎて、少し怖いくらいだ。

(この凪いだ瞳も、あの日と同じね)

 なんの感情を浮かばない、静かすぎる目。彼がかけらも志桜に興味を持っていないのは、言葉を交わさずとも伝わってくる。五年前も、そして今も。

(彼よりトキルのほうが、よっぽど愛想がよさそう)

「……ご無沙汰しておりました。私を、覚えていらっしゃいますか?」

 毎年のプレゼントを贈ってくれていたのだから忘れてはいないのだろう。が、五年も放置された婚約者としてこの程度の嫌みを言う権利はあるはず。

「覚えてはいる。俺も君に会わなければと思っていたところだ」

 残念ながら嫌みは通じていないようだ。

「まずは座って」
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